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第三章・初代王の夢と目覚め3
「ハウスト、お願いします。危ない場所ではないと聞いています。それなら私だってハウストたちといたいです」
「遊びに行くわけじゃない」
「それは分かっていますが、あなたとイスラとゼロスが行くなら私も」
お願いしようとして、ふと言葉を止めました。
クロードがじーっと私を見ていたのです。
もちろんです。忘れていませんよ。
私はクロードにニコリと笑いかけて手招きします。
「クロード、あなたもこちらへ」
「はいっ!」
クロードがぴゅーっと私のところに駆けてきました。
私は腕を広げて迎えると、その小さな肩を抱いてハウストを見つめます。
「ハウスト、ワガママは承知です。でも私とクロードも一緒に行きたいです。あなたとイスラとゼロスが行ってしまうのに、私たちだけ留守番なんて寂しいじゃないですか」
「そうです。わたしとブレイラもいきたいです!」
クロードも一緒になってお願いしました。
「寂しいですよね?」とクロードに問いかけると、「さびしいです!」と小さな両手をグッと握って答えてくれます。
そんな私たちにゼロスも仲間だといわんばかりに同意してくれます。
「僕も! 僕もブレイラとクロードがいないと寂しいよ! ねえ父上、みんなで行こうよ! そっちのほうが絶対楽しいって!」
「だから遊びに行くわけじゃないと言ってるだろ……。……おい、イスラもなんとか言ってやれ」
ハウストが黙っていたイスラに話を振りました。
イスラもハウストと同じように私の同行に難色を示していたのです。
「イスラにーさま……」
「兄上……」
クロードとゼロスがキラキラした瞳でイスラを見つめます。おねだりの瞳です。
でもイスラは口角を下げて眉間に皺を刻みました。
いけません、このままでは反対されそうです。ならば。
「イスラ、お願いします。イスラ……」
私もゼロスとクロードに並んでお願いしました。キラキラの瞳です。
そんな私たちにイスラが「ぅっ……」とたじろぎました。
そのまま……一歩、二歩と下がります。
もちろん私は一歩、二歩と離れた分だけ近づきました。
そしてじっと見つめてお願いします。
「イスラ、お願いします。あなたが私を心配してくれているのは分かりますが、あなたが一緒だから私は行きたいのです」
「っ、……じつは俺も丁度ブレイラたちと行きたいと思ってたところだ」
「おいイスラっ、裏切るのか!?」
ハウストがぎょっとして振り返りました。
しかしイスラは「……俺は最初からブレイラの味方だ」とハウストから目を逸らしました。
長男イスラの寝返りにハウストが焦り、ゼロスとクロードがはしゃいだ声を上げます。
「やった〜、兄上が丁度いいって〜!」
「イスラにーさまがちょうどいいっていいました〜!」
「騒ぐな」
二人の弟をイスラは苦々しげな顔で見ています。
私はイスラの腕に手を置きました。
「イスラ、ごめんなさい。でもワガママを聞いてくれてありがとうございます。私、あなたと行きたかったので嬉しいです」
「ブレイラ……」
イスラの顔がふわりとゆるみました。
仕方ないな……と困った顔をしながらも優しく笑ってくれます。
「謝るな、俺はブレイラにワガママを言われるのは悪い気しないんだ。ブレイラと一緒なのは俺も嬉しい」
「イスラ、嬉しいことを」
「やった〜、兄上も嬉しいんだって〜!」
「ワガママされたいっていってます〜!」
「お前らはちょっと黙ってろ」
イスラがぎろりっと睨んで二人の弟を黙らせます。
こうしてイスラが味方になってくれました。
私は改めてハウストを見ます。
ハウストはとっても呆れた顔で私と三人の子どもたちを見ていました。
特にイスラに対しては「お前にプライドはないのか」と言わんばかりの顔です。
でも私はめげませんよ。最後の難関はハウストなんですから。
「ハウスト、お願いします。せっかくなんですから家族で行きたいです」
「ちちうえ、わたしもいきたいです! わたしもいっしょがいいです!」
「父上、みんなで行こうよ。僕もブレイラとクロードをちゃんと守るよ。魔王と勇者と冥王が一緒に行くんだから、どこよりも安全だと思うんだけど」
私たちの説得にハウストが渋面になります。
でも、ふっとため息をつくと……。
「……わかった。手配しておこう」
「ハウスト、ありがとうございます!」
「ちちうえ、ありがとうございます!」
クロードが大喜びしました。
ハウストに礼を言うと私に飛びつくように抱きついてきます。
「ブレイラとわたしもいっしょです! いっしょにいけます!」
「嬉しいですね。みんなで頑張って初代王に会いに行きましょう」
「はい!」
クロードが大きく頷きました。
いい子いい子と頭を撫でてあげると、クロードはイスラとゼロスのところに駆けていきます。
「にーさま、おでかけのじゅんびです! はやくおでかけのじゅんび!」
クロードが張り切って準備をします。
この子は赤ちゃんの頃からお出かけの気配を察知すると赤ちゃん用のリュックや抱っこ紐を掴んでハイハイしてきました。家族でお出かけするのが大好きなのです。
その様子を見ながら私は改めてハウストに礼を言います。
「ハウスト、ワガママを言いました。ごめんなさい。でも許してくれてありがとうございます。遊びじゃないのは分かっていますが家族で行けてとても嬉しいです」
「そうか」
頷いたハウストに私はさり気なく側に寄ります。
そして内緒話をするように耳元でこそこそ。
「デートみたいですね」
「! ……そうか、悪くないな」
「悪くないです。デートです」
「デートだな」
こそこそする私たち。
デートだと思うと気分も盛り上がるというもの。
こうして私たち家族はまず初代勇者にあうために人間界へ赴くのでした。
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