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第三章・初代王の夢と目覚め5

「大丈夫ですか、イスラっ。しっかりしてください!」  私は慌ててイスラを支えます。  イスラは私の肩に手を置いてなんとか立ち直りました。 「だ、だいじょうぶだ……。少し目まいがしただけだ……」  イスラはそう言いながら脳天気すぎる立て看板をぎろりっと睨みます。 「まあ、そういう反応になりますよね……」  気持ちは分かりますよ。  初代魔王と初代精霊王の墓標が厳粛な埋葬をされていたので、初代勇者の墓標だって神秘的で神聖な感じになっていると思いますよね。 「これ初代イスラが知ったら怒りそうですよね」 「あいつ年頃だったからな」 「年頃……」  初代イスラを思い出して小さく苦笑してしまいます。  初代イスラは私のイスラよりも少し難しいところがあるというか、難しい年頃というか、反抗期というか……。とにかくそういう素直になれない年頃だったのです。よりにもよってそんな彼の墓標がまさか天然温泉まである観光地になっているなんて。 「もしもの時はお願いしますね。初代イスラが怒りに任せて港町を破壊したら大変です」 「俺がか?」 「あなたは友人なんですから。初代イスラだってあなたの話しなら聞いてくれますよ」  こうして私たちはとりあえず観光地化の衝撃を受け止めると、目的地へ行ってみることにしました。  立て看板にはわざわざ『この先すぐ!』と矢印つきで描いてあるのです。 「よかったね、探さなくていいみたい。楽でいいね〜」 「はい、みちあんないがあるのでかんたんです」  先頭を歩きだしたのはゼロスとクロードです。  二人は初代勇者の墓標が楽しそうなことになっていてなんだかワクワクしてますね。  二人の無邪気なワクワク会話にイスラの機嫌が下降しているのですが気づいてません。  そんなイスラに私の隣にいたハウストがニヤニヤしています。 「人間界は楽しそうだな。羨ましいぞ」 「喧嘩売ってるのか」  イスラが闘気をちらりと漂わせました。  弟が相手の時はひと睨みで黙らせるイスラですが、ハウストが相手の時は一戦交えることも辞さないのです。もちろんさせませんけどね。 「こらハウスト、イスラをからかってはいけません。イスラも受けて立たないでください」  こうして私たちは道案内に沿って小高い丘の小道を登っていきます。  岬は漁港を見下ろせる丘の上にあるようでした。  でも少しして一番前を歩いていたゼロスが立ち止まりました。そして重大なことに気づいたように振り返ります。 「ねえ、この観光地……寂れてない?」 「「「「!!」」」」  ゼロス以外の全員が黙り込みました。  気まずい沈黙が落ちましたが、なんとかフォローしなければ……。初代勇者の最期の地が寂れた観光地であっていいはずないのです。  しかしゼロスは容赦なく続けます。 「この道、だいぶ放置された道だよね。観光客が使う道っていうより獣道っぽくない?」 「そ、そんなことありませんよっ。この雰囲気は風流というのです。趣きがあるじゃないですか」 「そうかなあ……。さっきから誰もここを通ってないし」 「そんな筈はありません。立派な立て看板もあったじゃないですか」 「そうだけど、……あの看板、よく見たら色褪せてなかった? 放置されてたみたいな」 「っ……」  さすが冥王です。観察眼がありますね。  黙り込む私たちにゼロスはますます確信を強めます。 「やっぱりそうだって! この観光地、寂れてるんだって!」 「ゼロス、あなたという子は……」  そうですね。そうかもしれませんね。  でもね、それはみんなも気づいていたのですよ。それをあえて黙っていたというのに、ああこの子は……。気遣いが台無しじゃないですか……。 「ゼロス、それは初代勇者の前では絶対言ってはいけませんよ。観光地化していることだけでも逆鱗に触れそうなのに、挙げ句に寂れているなんて知られれば人間界は初代勇者の手によって滅ぼされてしまうかもしれません」  難しい年頃の少年は複雑なのですよ。  ゼロスは驚いたように目を丸めます。 「え、初代勇者ってそんなやばい人? さすが兄上と同じ名前の人」  ゼロスはうんうん頷いて感心していますが、「どういう意味だ」とイスラに睨まれていました。あのねゼロス、とりあえず名前は関係ありませんよ。  こうして私たちは寂れた丘の小道を登っていきます。  しばらくして小道を抜けると開けた場所にでました。  そこは海に臨む岬。そう、初代勇者最期の地。 「ここが初代イスラの……」 「ああ、文献ではここがもっとも可能性が高い。人間界にある陸地でもっともレオノーラに近い場所だからな」  感慨深い気持ちになりました。  初代イスラはどんな気持ちで最期を迎えたのでしょうか。 「おや珍しい。こんな所に観光客が来るなんて」  ふと背後から声がかけられました。  振り返るとそこには二人の人間が立っていました。老女と若い男です。

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