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第三章・初代王の夢と目覚め10
「ブレイラ、どうしてわたしだけないんですか!?」
「えっと、それはですね……」
おそらく子どもだからでしょうね。
観光客が急激に減ったとのことなので、きっと子ども用の浴衣は片付けられてしまったのでしょう。
ゼロスがクロードを慰めてくれます。
「クロード、元気だして。仕方ないよ、まだ子どもなんだし」
「こどもだからないっていうの、おかしいですっ」
「そう? そういうことあると思うけど」
「にーさま〜っ、どっちのみかたなんですか〜!」
慰めたのに怒られてしまってゼロスは「ええ……」と苦笑してしまいます。
次はイスラが腕を組んだ格好でクロードを宥めました。
「クロード、浴衣くらいで騒ぐな。さっさと着ないと風邪引くぞ」
「うっ、イスラにーさま……」
クロードが下唇をかんでイスラを見上げました。
イスラは宥めたつもりかもしれませんが、腕を組んだ格好で言われると少し怖いですよ。
クロードはますますプルプルしてしまいました。黒い瞳はうるうる潤んでいます。これは完全にいじけてしまいましたね。末っ子のクロードはどうしてもにーさま達と同じがいいのです。
そんなクロードを見兼ねたハウストがため息をつきました。父上が慰めてくれるのかと思いましたが。
「クロード、ワガママを言うな」
ああダメです。それは慰めではなくトドメですよ。
ほら見なさい。クロードの顔がくしゃりとなって、「ぅぐっ……」とぎゅっと目を閉じてしまいました。
目尻には涙の粒が滲んで、ああもう見てられませんね。
「ハウスト、イスラ、そんな厳しいこと言わないであげてください。クロードはまだ五歳ですよ」
「そんなつもりは……」
ハウストとイスラがたじろぎました。
私はムッとした顔を作って二人に注意です。
「あなた達の怒った顔と声は怖いのです。いくらクロードが次代の魔王とはいえまだ五歳なんですから」
私はそう言うとクロードと目線を合わせるように膝をつきます。
「クロード」
「うぅ、ブレイラ……」
クロードがいじけた顔で私を振り返りました。
私はクロードの目尻に滲んでいた涙を指で拭ってあげます。
「クロードはみんなと一緒の浴衣が着たかっただけなんですよね?」
「はい……、うぅ」
下唇を噛んだままこくこく頷くクロード。
いい子いい子と頭をなでなでしてあげます。
「分かりました。では今から私が宿の人に訊ねてきてあげますから待っててください。そのかわり訊ねても無かったら諦めるんですよ? できますか?」
「わかりましたっ。がまん、できますっ……!」
「いい子ですね」
私はクロードに笑いかけると立ち上がりました。
というわけで、私は今から宿の人に訊ねてきます。
「クロード、体が冷えてしまいますから温泉につかって待っててください。いいですね?」
「はい」
クロードは素直に頷いてくれました。
私も頷くと、ハウストにクロードをお願いします。
「ハウスト、申し訳ありませんがクロードと一緒にいてあげてください。一人でお風呂は危ないですから」
「仕方ないな。クロード、行くぞ」
「はい。……でもしかたないっていうのダメです。わたし、しかたなくありません」
「お前な……」
ハウストが眉間に皺をつくります。
でもちゃんとクロードを温泉に連れていってくれるんですから優しいですよね。
「では私は宿の人を探してきますね」
「俺も行く。あまり一人でうろうろさせたくない」
「この宿って広いもんね。僕も行くよ」
「あなた達は心配性ですね……」
イスラとゼロスの立候補に少し呆れました。親の私を舐めてます。
でも二人は当然のような顔をして「ブレイラ、早く行くぞ」「クロードがのぼせちゃうよ?」とさっさと脱衣所を出ていきました。
やっぱり心配性ですね。誰に似たのか……。
「待ってください。今行きます」
私も脱衣所を出るとイスラとゼロスと一緒に温泉宿の廊下を歩きます。
この温泉宿は老舗の宿だけあってとても大きな建物なのです。でもだからこそ入り組んだ廊下で人の気配がないと不安な気持ちになりますね。はっきりいって不気味です。
「静かですね……。ちょっと怖いです」
がらんっとした廊下に私の声が反響しました。
イスラとゼロスが一緒にいてくれてよかったです。
でも二人はまったく気にした様子はありません。私を挟んで歩いたまま普段通りの様子です。
「大丈夫だよ、ブレイラ。僕が守ってあげるからね。お化けが出てきてもやっつけてあげる」
「それは頼もしいですね」
「えへへ。まあね、僕もう十五歳だし」
「ふふふ」
ゼロスと話しながら歩いていましたが、反対側でイスラがふむっとなにやら考えだします。
「お化けといえば蘇った初代王はお化けでいいのか?」
「あ、そういえばそうですね」
私も思わず声を上げました。
ゼロスも「そういえば……!」と目を大きくします。
「そっか、一度死んでるんだからお化けだよね。でも触れるよ? 強いし、闘気や魔力もすごいし」
「そうですよね。そんな強いお化けがいるなんて聞いたことがありません」
「じゃあ、お化けじゃないってこと?」
ゼロスが首を傾げました。
うーん、と私たちは悩みます。
こうして私たちはデルバートが聞いたら怒らせてしまいそうな議論をしながら進みました。
でもね、こうして歩きながら気づいてしまいます。
廊下を進むにつれて、少しずつ薄暗くなっていることに……。
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