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第三章・初代王の夢と目覚め11
「あの……、イスラ、ゼロス、ちょっと変じゃないですか?」
なんだか怖くなって歩幅が狭くなってしまいます。
くいくいとイスラの浴衣の袖を引っ張ると、苦笑して振り返ってくれました。
「ああ、気付いてる。ちょっと様子が変になってきてるよな」
「うんうん。なんか薄暗くなってきたし、それになにか聞こえない?」
「私は聞こえませんが……」
困惑してしまいましたが、ゼロスはまた耳を澄ませます。
「あっちから聞こえてるよ」
そう言ってゼロスが廊下の奥を指差しました。
イスラも目を閉じて耳を澄ませます。「あ、聞こえた」とイスラも同意しました。ということは本当に聞こえているのでしょう。
私には聞こえませんが二人は四界の王なので聴力も規格外なのです。
「行ってみるか」
「そうだね」
イスラとゼロスはなんともないことのように廊下の奥へ歩いていきます。
そんな二人を慌てて引き止めました。
「ま、待って待って待ってっ、待ってください!」
「ブレイラ、どうしたの?」
ゼロスがきょとんとした顔で聞いてきました。
「どうしたのじゃありませんっ。本当に行くのですか?」
「うん。こっちに宿の人がいるかもしれないし。誰かいるなら行った方がいいと思うけど」
正論です。圧倒的な正論です。
私は反論できずにたじろぎました。
そんな私の姿にイスラがニヤリと笑います。
「ブレイラ、怖いんだろ」
「っ! ……そんなことはっ……」
私はそっと目を逸らしてしまう。
親のメンツにかけて認めたくありません。
「……い、いいでしょうっ。行きましょう。こういうのは行かなければ意味がありませんよね」
「無理しなくていいぞ」
「してません。行きますよ。浴衣のことを聞いて早く戻らなければクロードがのぼせてしまいます」
私はそう言うと歩きだしました。
イスラは苦笑して私の斜め後ろを歩きだします。
そしてゼロスは「僕が守ってあげるからね!」とイスラと反対側の私の斜め前です。
この配置は私を守るためのものですよね。
二人の動きはとても洗練されたもの。この自然なふるまいは多くの人を魅了しているのでしょうね。
知っているのですよ。大人びた物腰が魅力の勇者イスラとまだ少年っぽさが魅力の冥王ゼロス。二人の美形っぷりは四界に知れ渡っていますから。
こうして私たちは廊下の奥へ進みました。
しばらく歩いて、私の全身の血の気が引いていく。
き、聞こえますっ……。私にも聞こえてきました。
ザワザワザワ……。ザワザワザワ……。
一人や二人ではありません。大勢の人の気配。
多くの人の静かなざわめき。しかもブツブツブツブツなにかを呟いているような。
「ブレイラ、こっちだ」
「わっ」
突然イスラが私を物陰に伏せさせました。
イスラは私に覆いかぶさったまま口の前で指を立てます。
ゼロスも物陰で身を伏せて周囲を警戒していました。
その時、三つの人影が廊下を歩いてきます。
私は慌てて口を両手で塞ぎ、身を伏せて隠れました。
……なんですか、あれ。背筋に冷たい汗が伝いました。
三人は全身を包む白いローブを身にまとい、ブツブツとなにかを呟いていたのです。そして廊下の一番奥の部屋に入っていきました。
「ブレイラ、もう大丈夫だ」
イスラが私の肩をポンっと軽く叩きました。
瞬間、全身が脱力したようなため息が出ます。
「あ、ありがとうございます……。イスラ、さっきのはいったい」
「分からない。だが、確かめる必要があるな」
イスラがそう言うと、物陰から出てきたゼロスも同意します。
「兄上、あの部屋だよね。外に出れば窓から覗けるみたい」
「行ってみるか。ブレイラ、俺とゼロスから離れるなよ」
「分かりました」
私はこくりっと頷きました。
怖くないといえば嘘になりますが、先ほどの不可解な光景を無視することはできません。
先にゼロスが廊下の窓から外へ出ました。窓は高い位置にありましたが軽く飛び越えていきます。
「次はブレイラだよ。大丈夫だからこっち来て」
「行くぞ、ブレイラ」
「はい、お願いします」
私はゼロスのように窓を飛び越えることはできないので、下からイスラが支えてくれました。飛び降りるときもゼロスが下で受け止めてくれます。
「ブレイラ、大丈夫だった?」
「ありがとうございます。私は大丈夫です」
危うげなく受け止めてくれたゼロスに礼を言いました。
続いてイスラも窓を飛び越えて庭に出てきます。
私たちは気配を消して問題の部屋まで庭から回りました。
そして窓の外からそっと覗きます。
「っ、これは……」
異様な光景に息を飲みました。
広間には白いローブ姿の人たちが大勢いて、一心不乱になにかを祈っているようだったのです。
「わ〜、妙なもの見ちゃったね」
ゼロスが頭を掻きながら困った口調で言いました。
イスラは無言のまま険しい顔で広間の光景を見ています。
でもふいに。
「――――誰だ!」
広間にいた一人が私たちに気づきました。
咄嗟にイスラが私とゼロスごと身を伏せさせて難を逃れましたが、広間内がざわめきだします。
「なんだ、見間違いか?」
「誰かいたのか?」
「誰か様子を見てこい」
怪しんだ人たちがこちらに向かってこようとしていて、私たちは慌ててその場を離れようとしました。
でもその時。
「こっちへ。早くこっちへ逃げてくださいっ」
ふと男の声に呼ばれました。
ハッとして顔を上げると、そこにいたのは老女と岬で出会った時に一緒にいた男でした。老女の孫です。
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