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第三章・初代王の夢と目覚め12

「あなたはっ……」 「話しはあとです。いまはこっちへっ」  男は焦りながら私たちを呼んでいます。  背後から人が追ってくる気配が迫っていて判断を迷っている暇はありません。 「イスラ、ゼロス、行きましょうっ」  イスラとゼロスも頷いて、男に案内されるままに逃げ出したのでした。  広い庭をしばらく進み、裏口からまた温泉宿に入れてもらいました。  ここは温泉や客室に近い場所なのでもう誰に見つかったとしても大丈夫でしょう。  私は改めて礼を言います。 「ありがとうございました。さっきは助かりました」 「いいえ、上手く逃げられてよかったです」  男は安心した顔でそう言ってくれました。  でも私には疑問が出来てしまいました。 「あの、あなたはこの宿のおばあさんのお孫さんなんですよね?」 「はい、ルークといいます。岬で会った時に一緒にいたのはぼくの祖母で、この宿の主人はぼくの母親です。父は早くに死んでしまって……」  男はルークと名乗りました。  ルークは祖母と母親のことを語ってくれたけれど、岬で初めて出会った時とはずいぶん印象が違います。あの時は賑やかな祖母の隣でずっと黙っていたので無口なタイプに見えたのです。でも事情があるようですね。 「……ルーク様、さっきのあれはいったいなんなんでしょうか」 「ぼくのことはルークで結構です。宿のお客様にそのように呼んでもらうのは……」 「そうでしたね。ではルーク、教えてください。さっきの広間の光景はいったいなんなんですか? あそこに集っていた人たちはなにをしているんですか?」  訊ねるとルークは黙り込んで俯いてしまう。  困らせてしまったかと思いましたが、違いましたね。ルークは悔しげに唇をかみしめていたのです。 「……なにかあったのですか?」 「一年前までこの港町は観光客もたくさん来てくれる賑やかな町だったんです。ですが一年前にあの男がきてすべてが変わりましたっ……」 「あの男? もしかしてそれって一年前に港町を訪れたという老人のことですか?」  そう言って私はイスラを振り返りました。さっき温泉に入っている時に聞いたのです。  イスラは頷くとルークにもう一度聞いてくれます。 「さっき俺に話してくれた老人のことだな。その老人が港町に来てから観光客が減ったということか」 「そうです」 「では聞く。その老人が原因だと思った理由は?」  イスラの質問にルークが深刻そうな顔になりました。  そしてぽつりぽつりと語りだします。 「……あいつが来てから、みんなが少しずつおかしくなっていったんです。俺の母も祖母も、漁港の漁師たちも近所の人たちも、この港町のみんながおかしくなっていったんです」 「え、この町の人たちも?」 「はい。さっき広間にたくさん人が集まっているのを見ましたよね? あそこにいたのは町の人たちです。一年前に老人が町の中で妙なことを説き始めたんです。最初は誰も相手をしなかったのに、気が付いたら次々に町の人たちがあの老人の言いなりになるようになってっ……。クソッ、あいつさえこの町にこなければ……!」  ルークは悔しげに拳を握りしめました。  話を聞いて私とイスラとゼロスは顔を見合わせます。  この港町は謎の老人に乗っ取られているということでした。 「謎の老人か。調べてみる必要があるな」 「そうだね、僕も気になる」  イスラにゼロスも同意しました。  もちろん私も賛成です。ルークに老人のことを聞いてみます。 「その老人は普段はどこにいるんですか?」 「町の近くの遺跡です。日中はいつもそこにいて、夜になると町へきて広間に人を集めているんです」 「そうでしたか。イスラ、ゼロス、遺跡へ行かない理由がなくなりましたね。ハウストに相談しましょう」 「そうだな」 「そうだね」  イスラとゼロスも同意して明日の予定が決まります。  私たちの会話を聞いていたルークはみるみる表情を明るくしました。 「ありがとうございます! 本当にありがとうございます! この御恩は決して忘れません!」  ルークが私たちに深々と頭を下げました。  ルークの町の人々を思う気持ちが伝わってきて胸が暖かくなります。 「お礼なんていりません。私たちは元々観光で来ていただけなんですから。あ、でももしよかったら子ども用の浴衣を用意していただけますか? 末っ子がどうしても浴衣が着たいと駄々をこねまして」  そう、私たちの本来の目的はクロードの浴衣を借りることです。  思わぬ私のお願いにルークは目を瞬きましたが、次には笑って「すぐに準備いたします」と用意してくれました。  クロード、よかったですね。みんなとお揃いの浴衣ですよ。

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