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第四章・十万年を暴いた男1

 翌日の朝。  私たち家族が乗車した馬車が港町をでました。  街道をまっすぐ出て古代遺跡がある区域へ向かいます。そう、昨夜温泉宿で聞いた遺跡です。 「ブレイラ、ここをまっすぐいったところにあるんですか?」 「そうですよ。もう少しでつくと思います。クロード、窓から顔を出していると危ないですよ」 「はーい」  クロードが素直に顔を引っ込めて隣に座っている私を見上げます。  目が合うとにこりっと笑ってくれて、かわいいですね。  本当なら今回の遺跡も旅行気分で楽しみたかったのですが、それが難しくなってきました。  昨夜の奇妙な出来事は忘れられません。今思い出しても背筋が冷たくなります。  昨夜ルークから話を聞いてすぐにハウストとクロードが待っている温泉へ戻りました。もちろん子ども用の浴衣も持っていきましたよ。  クロードは大喜びして『わたしもゆかたです!』と何度も鏡を見ていました。家族全員お揃いの浴衣になったことが嬉しそうでした。  その時のクロードを思い出すと自然と笑みが浮かびますが。 「ハウスト……」  ハウストを見つめました。  私の視線にハウストも頷きます。  昨夜のことはもちろんハウストに話しました。ハウストはすぐに謎の老人について調査するように命令したのです。  それについてはイスラも動き、この港町について調査するように人間界の国王に命じました。  今から行く遺跡でなにが分かるか分かりませんが、港町での出来事はただ事ではありません。それに遺跡が関係しているなら……。 「ハウスト、昨夜の広間では集まった人々が一心になにかを呟いていました。まるでなにかの儀式のように……」 「儀式か……。妙なものじゃないといいが」 「はい、もし港町の人々が巻き込まれているなら心配ですね」  こうしてハウストと話していると、向かいに座っているゼロスがイスラに話しかけます。 「ねえねえ兄上。今から行く遺跡ってどんなとこなの? なんの遺跡?」 「俺に聞いてんのか」  イスラが面倒くさそうにゼロスを見ました。  イスラは朝から内偵の手配を命じたり、自分でも調査を開始したりと忙しかったのです。  でもゼロスが構うことはありません。 「兄上なら知ってると思って。教えてよ」 「自分で調べろ」 「えー、目の前に勇者がいるんだから直接聞いたほうが早いじゃん。勇者は人間の王なんだから、人間界で分かんないことなんてそうそうないでしょ?」 「馬鹿言うな。俺だって人間界で知らないことはある」 「それは分かってるけど、兄上って遺跡とか探索するの好きだし」 「なんだその理屈は。だいたいお前も冥王だろ、少しはプライドを持て」 「せっかく魔王と勇者が父上と兄上なのに?」  ゼロスが当然のように答えました。  それにイスラは呆れた顔をしますが、「仕方ない奴だな」と苦笑します。  ゼロスは生まれた時から魔王の父上と勇者の兄上がいるのが当たり前だったので、あまりそういうのに抵抗はないんですよね。むしろ。 『みんなで力を合わせて頑張ろうよ!』  と言ってしまうくらいですからね。  それは創世の王である冥王だから言えるのかもしれません。冥王なのにのん気だと呆れられるかもしれません。でも私はそういうの大好きですよ。  じつはハウストやイスラだってなんだかんだ嫌いではないですよね。 「ふふふ、まあまあ。イスラ、私も知りたいです。この遺跡ってどういう遺跡なんですか?」  私からも聞いてみました。  私も人間界出身ですがイスラのほうが詳しいですから。  するとイスラもあっさり教えてくれます。 「今から行く遺跡は三万年前まで港町だったんだ。それが三万年前に住民が各地に散っていったらしい。昨日泊まった港町も元々遺跡があった場所から移ってきたようだ」 「そうだったんですね。でもどうして三万年前に住民は町を出たのでしょうか……」 「それは分からない。自然災害か、食料が確保できなくなったのか、疫病か……。とにかく町にいられなくなったんだろう。でないと住民がごっそりいなくなるなんて考えられないからな」 「遺跡でなにか分かるといいんですが……」  そう話しているうちに馬車が停車しました。遺跡に到着したのです。  私たちは路銀を払って馬車を降りました。  まさか魔界から馬車を手配するわけにはいかないため、港町で馬車一台を借りていたのです。 「ここが噂の遺跡か〜!」  ゼロスが大きく伸びをしながら言いました。  クロードも瞳をキラキラさせて遺跡を見回します。

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