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第四章・十万年を暴いた男3
「ブレイラ、行くぞ。あいつらが呼んでいる」
そう言ってハウストが私と手を繋いだまま歩きだしました。
見ると先を歩いていたイスラとゼロスとクロードが私たちを振り返っています。
「ブレイラ、早くこっち来て〜! こっちになんかあるよ〜!」
そう言ってゼロスが大きく手を振ってくれました。
イスラが「なんかってなんだ」と小突くと、ゼロスがおでこを守って言い返しています。
そんな何気ない息子たちのやりとりに、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
「ふふふ、行きましょうか」
私はハウストと手を繋いで歩きました。
三兄弟のところに行くと、ゼロスが遺跡群の一画にある石像や石板を見ています。
どうやらここは遺跡で発見された歴史的資料が展示された一画のようでした。
「遺跡の石像に初代勇者のことが書いてあったんだよね。それならここにも何か書いてあるのかなって」
「ここの資料は観覧用ですから全部調べられてると思うんですが、他の場所には未調査の石像や石板があったりしますよね……」
ここは整備された観光地なので、観光資源の遺跡は大切に保管されています。
ならば未調査の石像や石板や古文書なども大切に保管されているはずなのです。一般的にそこは立入禁止の場所になっていたりするのですが。
ちらり。イスラを見ました。
ちらり。ハウストもイスラを見ました。
ちらり。ゼロスもイスラを見ました。
ちらり。クロードも私たちの真似をしてイスラを見ました。
そんな私たちの視線にイスラが憮然とします。
そう、人間界で一般人立入禁止の場所に堂々と入れるのは勇者だけ。人間界で勇者の行く手を阻むことはなんぴとも出来ないのです。
「…………。……分かった、行ってくる」
イスラはため息をついてそう言うと、遺跡の管理棟らしき場所に向かって歩いていきます。
しばらくして鍵をもって戻ってきました。
「倉庫と研究室の鍵を借りてきた。未調査の遺物は倉庫に大量に眠っているらしい」
「さすがイスラです。そうです、それが欲しかったんです」
さすが勇者イスラ。人間界で行けない場所はありませんね。
ハウストも満足そうに頷きます。
「やはり人間界を出歩くなら勇者は必需品だな。面倒がはぶける」
「持ち物みたいに言うな」
「さすが兄上! こういう時ってやっぱり脅してるの?」
「俺をなんだと思ってるんだ」
イスラが目を据わらせました。
ハウストとゼロスのは誉め言葉ではありませんでしたね。
「はいはい、そろそろ行きますよ。せっかく倉庫や研究室に入れるんですから時間がもったいないです」
こうして私たちは一般人立入禁止区域へ足を踏み入れたのでした。
「外の喧騒が嘘のように静かですね」
私は石造りの高い天井を見上げました。
ここは観光地になっている遺跡のさらに奥にある遺跡群で、私たちは遺跡となった古い時代の建造物の中を歩いていました。
この場所に観光客は一人もいません。出入りできるのは研究者や学者の関係者だけです。
それというのも観光地になっているのは遺跡全体の三割ほどで、残り七割の広大な遺跡群はまだ未調査の区域だったのです。
私たちは勇者イスラのおかげで本来なら立入禁止の未調査区域に入っていました。
「おっきいですね。むかしのおしろみたいです。あーあー!」
「そうだね、元々神殿だったのかな? だいぶ発展した建築様式だし。しーんーでーんー」
「それじゃあ、いまはいせきになっちゃってますけど、そうなるまえはおおきなまちだったんですか? おーきーなーまーちーー!」
「そーうーだーよ〜〜」
ゼロスとクロードの不自然すぎる会話。
でも二人はとっても楽しそうに声を出しています。
ここは天井が高くて広いので声が反響するのです。それが面白くてクロードが声を出し、ゼロスもそれに合わせて遊んでくれていました。
「ふふふ、楽しそうですね」
「いっぱいひびいています。これってはんきょうっていうんですよね。おとがぶつかってるんです」
「よく知っていますね。講義で習ったんですか?」
「はい、かんぺきにおぼえました」
クロードが胸を張って言いました。
よくお勉強していますね。えらいですよ。
こうして遺跡の回廊を歩き、奥にある一室に入りました。
ここには十万年前の地層から発掘された石像や石板が未調査のまま置かれているのです。
「さすがに十万年前ともなると、それほど多くありませんね」
私は室内を見回して言いました。
この遺跡群から発掘されているのは三万年前のものが多く、十万年前の地層から発掘されるものは少ないようでした。
イスラが室内を見回して頷きます。
「これなら手分けすればすぐ終わるな。ゼロス、考古学は習得してるだろうな」
「……そこそこ」
「そこそこってなんだ。せめて基礎は頭に入ってるのか?」
「あ、それなら大丈夫。でも難易度高くなったら父上と兄上のとこに持ってくからよろしく」
「……たくっ、冥王なら考古学くらい習得しとけ」
「はーい、がんばりまーす!」
ゼロスが手を上げて返事をしました。
そんなゼロスの言動は軽いものですが、これから取り組む作業は十万年前の地層から発掘された石板の解読です。その難易度は専門の研究者が取り組むレベルのものでした。
もちろんハウストもイスラも当然のように考古学を習得しています。
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