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第四章・十万年を暴いた男4
「イスラ、私にもなにか出来ることはありませんか?」
「ありがとう。じゃあブレイラはハケで石板を綺麗にしてくれ」
「分かりました、頑張りますね。クロード、あなたもこちらでお手伝いですよ。この小さなハケを使って石板や石像を綺麗にするんです。頑張りましょうね」
「はい!」
クロードが張り切って返事をしてくれました。
私とクロードはハケの担当さんです。私たちに古代文字の解読はできませんからね。
私たちはさっそく作業に取り掛かりました。
ゼロスは石板を解読しながらメモしていきます。
「ふんふん、なるほど。それならこうかな〜、できた! 兄上、こっちの解読できたよ〜」
「どれだ。……よし、まあいいだろ」
「上手にできたでしょ?」
「お前にしてはよくやった。次はあっちのを片付けろ」
「分かった。……って、あんなに!? あれ僕が処理すんの!?」
「文句でもあるのか」
ぎろりっと睨まれてゼロスは「あ、ありません……」と粛々と持ち場に戻りました。
しかしゼロスはめげません。石板の解読に取り掛かったと思ったら……。
きょろきょろ。よいしょ。
きょろきょろ。よいしょ。
ゼロスのあやしげな動き。同時にハウストの目が据わっていきます。
「……おい、ゼロス。どういうつもりだ」
「あ、見つかっちゃった?」
「見つかっちゃったじゃないだろ。俺のところに持ってくるな」
そう、ゼロスは石板をさりげなくハウストの持ち場に置いていたのです。
「ごめんね、父上にちょっと手伝ってもらおうと思って」
「なにがちょっとだ。自分でしろ」
「はーい」
ゼロスが唇を尖らせて返事をしました。
こうしたやり取りがありつつもハウストとイスラとゼロスは古代文字の解読を続けます。
さすが四界の王ってすごいですよね。ゼロスも子どもの頃は講義中に居眠りしたり逃亡したりすることもありましたが、それでも本人がその気になればあらゆる分野の学問を習得してしまうのですから。
「ブレイラ、こっちきれいにできました」
クロードが小さな石板を見せてくれました。
クロードはハケの担当さんになってから黙々とハケ作業をしていたのです。石板の前にちょこんと正座して隅々まで綺麗にしていました。
「上手にできましたね。ではイスラのところに持って行ってください」
「はい!」
クロードが綺麗にした石板をイスラのところに持っていきます。
「にーさま、どうぞ。かんぺきにできました」
「見せてみろ」
イスラはクロードが綺麗にした石板をチェックします。
クロードは緊張した顔でイスラを見つめ、「どうですか?」「こことかきれいにできたとおもうんですけど」と指差してアピールしています。
そんなクロードを横目にイスラは無言で厳しくチェックしていましたが、しばらくして。
「よし、まあいいだろう。解読しやすくなったぞ」
「やった! やっぱりわたし、かんぺきにできてました!」
クロードが大喜びしました。
どうやら合格したようですね。
石板を受け取ったイスラはそのまま解読作業に入りましたが。
「…………。……まだ何かあるのか」
イスラが訝しんでクロードを見ました。
チェックが終わったというのにクロードが元の作業に戻らないのです。
「さっさと戻って続きをしろ。まだ石板が残ってるだろ」
「そ、そうなんですけど。あの、その」
クロードがおずおずと口を開きます。
「わたし、むしのかせきならわかるんですけど」
「虫?」
「はい、ほかにも『よいこのこうこがく』でおべんきょうしてるんですけど」
「…………」
イスラが無言で真顔になりました。
これは……。
そう、クロードはイスラやゼロスと一緒に解読作業を手伝いたいと言っているのです。
……無謀です。まだ『よいこのこうこがく』で虫の化石を発掘するレベルでは、とてもではないですが古代文字の解読なんて無謀すぎます。
しかし褒められたクロードはすっかりその気になったようで、期待たっぷりの瞳でイスラを見ていました。
「にーさま、わたし、むしのかせきならすぐみつけられます! こことかじょうずにきれいにしたので、にーさまとおなじこともできるとおもうんですけど」
「……本気か?」
「ほんきです! かんぺきにできます!」
「…………」
イスラが無言になりました。
クロードは張り切っているけれど完璧にできるはずがありません。
イスラが盛大なため息をつきました。
「クロード、お前に出来ることはない。持ち場に戻ってろ」
「っ!?」
クロードに衝撃が走りました。
きっぱり拒否されてショックを受けたのです。
クロードは下唇を噛みしめて、プルプルしながらよろよろです。今にもふらりと倒れてしまいそう。
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