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第四章・十万年を暴いた男5
「ああクロード、しっかりしてください」
「ブ、ブレイラ……、イスラにーさまが、イスラにーさまがわたしにできることはないって……」
「そんなことありません。クロードは石板を上手に綺麗にしてくれたじゃないですか」
「でも、わたしは、わたしはイスラにーさまとおなじことを……」
「クロード、しっかりするのですよ」
ふらりとよろめくクロードを後ろから支えてあげました。
イスラは物事をはっきり言うタイプなので五歳児にも容赦ないのです。
こうして下唇を噛んでプルプルしているクロードにゼロスが苦笑しました。
「あーあ、兄上はそういうとこあるから〜」
「本当のことだろ」
「本当のことかもしれないけど、クロードだって頑張ってるんだしそんなはっきり言わなくても」
ゼロスが「まあまあ」と宥めながらイスラに言います。
でもその内容にクロードはさらにプルプルです。
「ゼロスにーさまが、ほんとうのことかもしれないけどっていいましたっ。ゼロスにーさまが、ほんとうのことって。……うぅっ」
ゼロスの本音にクロードはさらなる衝撃を受けています。
イスラよりゼロスのほうがクロードに甘かったりするので、思わぬゼロスの本音にショックが大きいようですね。
私はクロードの頭をなでなでして慰めると、本音を隠さないイスラとゼロスに声を掛けます。
「イスラ、ゼロス、もうそろそろその辺で」
そう言うとイスラとゼロスが振り向きました。
私が「こら」と二人を注意すると、二人がばつの悪そうな顔をしてそっぽ向く。仕方ないにーさまたちですね。
「少し休憩しましょうか。私は給湯室を借りてお茶を淹れてきます」
気分転換を提案しました。
ここに来てからずっと根詰めているので休憩も挟まなくてはいけませんよね。
「ブレイラ、わたしもおてつだいします!」
「ありがとうございます。お願いします」
クロードが立候補してくれました。
気持ちを切り替えたようですね。えらいですよ。
ハウストも作業の手を止めて一緒に行こうとしてくれます。
「ブレイラ、俺も手伝おう」
「いいえ、大丈夫ですから休んでいてください」
ずっと難易度の高い作業をしていたのはハウストとイスラとゼロスです。この三人に休んでもらわなければ意味がありませんからね。
「イスラ、ゼロス、あなた達も少しは休んでくださいね」
「はーい」
ゼロスが石像に刻まれた文字を読みながら手を振りました。
イスラは「お前はちゃんと休んでるだろ」とゼロスに突っ込みながらも、私を振り返ります。
「ブレイラ、ありがとう。頼む」
「ふふふ、待っていてください。クロード、行きましょうか」
「はい!」
私はクロードを連れて部屋を出ました。
広い回廊をクロードと歩きます。
途中ですれ違った遺跡の研究者に給湯室を聞くとそちらに向かいました。
「ブレイラ、わたしがちゃばいれたいです。わたしはかんぺきにおてつだいできるので」
「いいですよ。どんな茶葉があるか楽しみですね」
私とクロードはおしゃべりしながら歩きます。
広い遺跡は迷路のようですね。どれだけ歩いても似たような景色なので迷いそうです。
でも聞いていた給湯室はこちらのはず。私とクロードは階段をあがって、角を曲がって、中庭の回廊を歩いて、階段を降りて、長い廊下を歩いて……。
「…………。……ブレイラ」
「……なんでしょう」
「あの、その」
クロードがなにかを言いかけて、でも黙って、でもまたなにか言いかけて。
少ししてクロードはおずおずと私を見上げます。
「あの、もしかして、もしかして、……わたしたち、まいごになってるんじゃ」
「迷子……」
「はい、まいご……」
「…………」
私は黙り込んでしまう。
そんな私にクロードの表情がみるみる強張っていく。
「わ、わたしたち、やっぱりまいごに……!」
「大丈夫ですっ、大丈夫ですよクロード。迷子ではありません。ちゃんと給湯室に辿りつけますよ」
「ほんとうですか?」
「もちろんです。さあこちらですよ」
私はクロードと手を繋いでまた歩きだします。
長い廊下を歩いて、右に曲がって、今度は別の中庭に出て、階段を降りて……。
「あの、あの、ブレイラ……?」
クロードが恐々と私に声をかけてきました。
迷子ではありませんよと安心させてあげたいけれど、…………認めるしかないようです。
「……も、戻りましょうか。ちょっと行き過ぎたようですね」
「はい……」
クロードがプルプルしながら頷きました。
どうやらクロードは不安になっていたようですね。ここは迷路のような遺跡ですから。
「大丈夫、ちゃんと戻れますよ」
「ブレイラは、どうやってここまできたかおぼえてるんですか?」
「…………」
覚えているわけがありません。
しかしここで分からないなんて言えませんよね。
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