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第四章・十万年を暴いた男9
「どこから聞こえるか分かりますか?」
「えっと……」
クロードは礼拝堂の中をきょろきょろ見回しました。
耳を澄まして声がする方に向かって歩きだします。
祭壇へ上がり、シンボルが刻まれた壁面へ。
「このかべのむこうから、ちっちゃなこえがします」
「ここから?」
私は壁に耳を当てました。
すると、……聞こえます。耳を澄まさなければ分からないけれど、たしかに声が聞こえてきます。
『……たすけて。……ここからだして』
聞こえてきた声に息を飲む。
聞こえてきたのは少女の声。
この壁の向こうに少女がいるのです!
「ここですね。この壁の向こうに女の子がいます……!」
周囲を見回しました。
扉のようなものはありません。だとしたら……。
「きっと隠し扉です。どこかに扉があるはずです!」
私は壁面を触って扉を探します。
クロードもそれを真似て違和感のある場所を探しました。
しかし見当たらなくて困惑してしまう。
でもその時、壁面に刻まれたシンボルが視界に飛び込んでくる。
もしかして……。私はごくりと息を飲みました。
おそるおそる壁面のシンボルに近づいて、そっと触れてみます。
ズズズ、ズズ……。
低い音を立てて壁だった扉が開きました。
そう、壁だと思っていた所は分厚い扉だったのです。
「ブレイラ……」
クロードの緊張した声に、私はその小さな手をぎゅっと握りしめます。
扉の先には暗闇に包まれた階段がありました。
そしてその階段の奥から聞こえてくるのは助けを求める少女の声。
「……クロード、私は行こうと思います」
「えっ、ブレイラが?」
「はい。この先に少女がいるなら無視できません」
私は暗闇に包まれる階段を見据えて言いました。
でもそれは私が一人で決めたこと。幼いクロードを一緒に連れていくことはできません。
「クロード、あなたはここを出なさい。ここを出て、ハウストとイスラとゼロスのところへ戻りなさい」
「まってください! ブレイラひとりで……」
「あなたは魔界の跡継ぎです。この先になにがあるか分からないのに一緒に連れていくことはできません。それよりもハウストのところへ行ってこのことを伝えてください」
「い、いやです! ブレイラがいくならわたしもいきます!!」
「駄々をこねてはいけません。あなたは戻りなさい」
「いやです! ぜったいいやです! わたしがブレイラをまもりますから、だからいっしょにつれてってください!」
そう言ってクロードが私の手をぎゅっと握りしめました。
離すまいとするそれに堪らない気持ちがこみあげます。
「クロード、でもあなたを危険な目に遭わせるわけにはいかないのです。だから、お願いですから……」
「うぅ、ブレイラ……」
クロードが下唇を噛んでプルプルしました。
このまま説得して諦めてもらおうとしましたが。
「……でも、わたしがひとりでもどるのはあぶないとおもいます」
「え」
「かんがえてみてください。わたしがひとりでここをでて、ちちうえたちのところにいくまえになにかあったらどうするんですか」
「そ、それは……」
「それなら、わたしはブレイラといっしょにいたほうがいいとおもうんです。だってそうですよね、ひとりでいたときになにかあったらこまりますよね」
「…………」
「そうですっ。ぜったいそうです! それにブレイラ、こまったときはひとりじゃダメだって、だれかにたすけをもとめなさいっていってました! わたし、ひとりだとこまるとおもうんですけど。だってまだごさいなんで!」
な、生意気な……。この子、私を説得するつもりですね。
しかもなんだかクロードの言い分にも一理あるんですけど。
私はクロードに負けまいと言い返します。
「でもねクロード、もし一緒にいてなにかあったら私ではあなたを守りきれません。だからあなただけでも」
「それなら、ブレイラはわたしといっしょにいたほうがいいです! わたし、ぼうへきまほうできますし、ちょっとだけならしょうかんまほうもできます。ゼロスにーさまにおしえてもらいました!」
「…………」
ど、どうしましょう。強いです……。クロードの押しが強いです……。
黙り込んだ私にクロードが畳みかけてきます。
「だからいっしょにいきましょう! わたしだけなんてやめたほうがいいです!! ね!?」
ぎゅっ。手を強く握られました。
私はクロードのためにハウストのところに戻れと言っているのに、この子は……。
呆れたような、頼もしいような、なんだか複雑な気持ちです。
「……分かりました。では、私から絶対に離れないでくださいね」
「ブレイラ〜! ありがとうございます! わたしがぜったいまもってあげます!」
「頼もしいですね。ではよろしくお願いします」
私の方が根負けしてしまいましたよ。
許可した私にクロードは嬉しそうな顔になって、こんな時だというのに可笑しい気持ちになります。仕方ない子ですね。状況を分かっているのかいないのか……。
「では行きましょう。この階段の先に少女がいるようですから」
「はい!」
私とクロードは手を繋ぎ、慎重に階段を降りていきます。
進むにつれて視界は闇に覆われましたが、その時、足元がパッと明るくなりました。クロードの光魔法です。
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