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第四章・十万年を暴いた男10
「これでだいじょうぶです。あかるくなりました」
「ありがとうございます。暗くて歩きにくかったんです」
そう言うとクロードの顔がパァッと明るくなりました。
誇らしげに私を見上げます。
「わたしもそうおもったんです! わたしもいっしょでよかったですよね!」
「ふふふ、そうですね。でも危ないことはなしですからね」
「はい!」
「よいお返事です」
私とクロードは手を繋いで階段を降りていきます。
クロードが足元を照らしてくれたおかげで視界が確保できてよかったです。
こうしてしばらく階段を降りると地下通路にでました。
古い作りの地下通路ですが水路もあります。整備されながら今も利用されているようですね。
そして通路の奥からは少女の声。
「クロード、あちらから声がします。行ってみましょう」
「はい」
私たちは警戒しながら進みます。
地下通路に響くのは、時折聞こえてくる少女の声と私たちの足音だけ。
がらんとした通路だけど、どこになにがあるか分からず、誰が潜んでいるか分かりません。
ただはっきりしているのは、ここが警戒すべき場所だということ。礼拝堂の壁面に刻まれていたシンボルは忘れたくても忘れられないものなのですから。
進むにつれて助けを呼ぶ少女の声が大きくなります。
「助けて! 誰かっ、誰かここからだして! お願いだから、誰かっ……!」
祈るように助けを求める少女の声。
やっぱりどこかに閉じ込められているのです。
私はクロードと手を繋いで声がする方へ急ぎます。
しばらく進むと鉄扉がずらりと並んでいる区間に入りました。
古くて錆びているけれど分厚くて頑丈な鉄扉です。
「どこですか! どこにいるんですか!! 返事をしてください!!」
「おへんじしてください!」
私とクロードは声を上げて少女に呼びかけました。
すると少女の口調が興奮したものになります。
「誰かいる! 誰かいるのね! ここだよ、ここにいるよ!! 助けてくださいっ、助けてください!!」
「待っていてくださいね! すぐに助けてあげます!」
私は返事をすると、クロードの手を引いて声がした方に向かって走りました。
少女は「ここですっ、ここにいます!」と声を上げてくれて、内側からドンドン叩かれている鉄扉を見つけました。
「あそこですね、すぐに出してあげます。っ、鍵がかかっているんですね……!」
ガチャガチャとドアノブを回したけれど鍵がかかっていて開きません。
困っているとクロードが手を上げて立候補してくれます。
「ブレイラ、これこわしてもいいですか? こわしていいなら、あけられます!」
「壊していいですよ! よろしくお願いします!」
さすがクロードです!
まだ五歳でも次代の魔王なのですよね。すかさず許可しました。
クロードはポケットから小石を取り出すと鉄扉の前で魔法陣を描きます。
四界の王など魔力が強い者は魔法陣を魔力で出現させますが、クロードはまだ自力で描かなくてはいけません。
「ちょっとまっててください。こうして、こうして、こう。こっちはこう。できました!」
クロードは小さな魔法陣を描くと満足そうに頷きます。
そして魔力を集中しました。
「うーん、うーん、えいっ!」
ドンッ! ガタンッ!
小さな稲妻が走って鉄扉が傾きました。成功です! 鍵が破壊されたのです!
「ありがとうございます! よく頑張りました!」
「はい! かんぺきにできました!」
「はい、完璧ですよ! 待っててください、すぐに出してあげますからね!」
私は傾いた鉄扉をどけてあげました。
ここは地下牢のような場所なのです。少女はむごい仕打ちを受けているかもしれません。早く助けてあげないと……。
「え?」
私は目を丸めました。
鉄扉を撤去し、私の視界に飛び込んできた光景。そこは牢獄ではなく、貴族の令嬢が使っていそうな華やかで贅沢な部屋でした。
テーブルには色鮮やかなデザートが並んでいて、他にもボードゲームやカードゲームなど少女のための品がいくつも用意されていたのです。
そこは鉄扉に阻まれた地下牢とは思えない場所で、唯一の違和感といえば窓がないくらいでしょうか。
少女はその部屋から助けを呼んでいたのです。
「ありがとうございます! 助けに来てくれたんですね!」
呆然と部屋を見つめていましたが、少女の声にハッとしました。
「大丈夫ですか!?」
「ありがとうございますっ、ありがとうございます……!」
少女は涙目で私とクロードに礼を言いました。
私は少女を支えながらも違和感を覚えてしまう。
少女は監禁されていたのに、その身なりは整っていました。肌も髪も清潔で石鹸の香りすらします。
地下牢などという場所では凄惨な拷問が行なわれていてもおかしくないのに、そういった雰囲気が一切ないのです。
ではなぜ少女はここに……。そもそもこの少女はどこかの令嬢なのでしょうか。それともここで暮らす孤児なのでしょうか。
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