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第四章・十万年を暴いた男13
「もうダメっ、あけられるー!」
「頑張ってください! この扉を突破されるわけにはいきません! クロード、どうですか!? できましたか!?」
私は少女を励ましながらクロードを振り返りました。
クロードが焦りながらも魔法陣を一生懸命描いています。
「も、もうちょっとです! もうちょっとで、……できました!!」
クロードが転移魔法陣を完成させました。
さっそく魔力を集中して転移魔法陣を発動させようとしましたが。
「えいっ! えいっ! ……あ、あれ? えいえい! ……ど、どうして……っ」
「クロード、どうしました!?」
クロードの様子が変です。
いつものクロードならすぐに発動できるのに、みるみる青褪めていくのです。
クロードがぷるぷるしながら私を見ました。そして。
「ブ、ブレイラ、だめですっ。てんいまほうじんが、はんのうしませんっ……!」
「えっ?」
バターーーン!!
押さえていた扉が突破されました。
そこに立っているのはヨーゼフと、それに従う大人や子どもたち。
ヨーゼフはニコニコとした穏やかな笑顔を浮かべています。
「無駄ですよ。その子どもくらいの魔力では、この地下から外部に転移することはできません。この地下は仕置き用に使っているので魔力を封じる結界が張られているんです」
「そんなっ……」
愕然としました。
少女も絶望的な顔でヨーゼフを凝視しています。
「さあ、逃げても無駄なのは分かったでしょう。魔力無しのあなたとお話ししたいことがたくさんあるんです。あなたはレオノーラ様をご存知のようですから」
「私は話すことなどありません」
「そう言わずに、レオノーラ様について語らいましょう。レオノーラ様が降臨すれば四界は魔力無しの人間を崇めるようになります。楽しみではないですか」
ヨーゼフはニコニコした顔で続けます。
「私は魔力無しのあなたに無体な真似はしたくありません。どうか」
「……それは脅しですか?」
「とんでもない。これはお願いです。私は魔力無しの人間の下僕です」
ヨーゼフが恭しくお辞儀しました。
でも後ろにいた大人たちが私たちに近づいてきます。
クロードが私の足にぎゅっとしがみついてきて、私はその肩をしっかり抱きしめます。
ここは狂気に満ちています。反感を買えばなにをされるか分かりません。
黙った私にヨーゼフが満足そうに頷きます。
「理解していただいてありがとうございます。賢明な判断です」
ヨーゼフは笑顔でそう言うと「二人を連れていきなさい」と命令します。
するとお手伝いの男が近づいてきて、私とクロードを引き離そうとします。
「ち、ちょっと待ってください! なにするんですかっ、クロードをどうするつもりです!!」
「ブ、ブレイラっ!」
私はハッとしてクロードを抱きしめました。
クロードも私にぎゅっとしがみつきます。
しかしヨーゼフがニコニコしたまま命じます。
「魔族の子どもが魔力無しのあなたに近づくなどあってはいけないでしょう。早く連れていきなさい」
「馬鹿なこと言わないでください! クロードは私の子どもです! 魔族だろうと関係ありません!!」
絶対にクロードを離しません。
両腕にクロードを抱きしめてヨーゼフを睨みつけます。
しかしヨーゼフは不思議そうな顔をしました。
「おかしなことを言いますね。その子は純血の魔族ではないですか。魔力無しの人間から生まれるはずがありません」
「血は繋がっていなくてもクロードは私の子どもです! クロードは離しません!!」
私はきっぱり言い切りました。
しかしヨーゼフもここにいる大人や子どもも理解できないといった顔をします。
「なにを言っているんです。本当なら神聖な魔力無しの人間に魔族が近づくことすら許されないのに。しかしレオノーラ様は寛大な心ですべての世界を守られました。だから私たちも憎むことはありません。こうしてまた世界を救おうとしているくらいなのですから」
「な、なにを言っているのですっ……」
「おしゃべりはここまでです。さあ連れていきなさい」
「はい、ヨーゼフ様の言う通りに」
屈強な男たちが近づいてきて、クロードを私から引き剥がそうとします。
「ブ、ブレイラ! ブレイラ!!」
「クロード! クロード!」
私は青褪めるクロードをぎゅっと抱きしめました。
クロードも離れまいと全身で私にしがみつきます。
「いやですっ。うぅ、いたいっ。ブレイラ〜〜!」
「クロードを離しなさい! クロードに乱暴なことしないでください!」
絶対離しません! 離したりしません!!
しかし男たちはしがみつくクロードの手の指を一本一本引き剥がして私から離そうとする。
クロードの顔が不安と恐怖で歪んで、ああクロード!!
「クロード! クロード!! クロードを離してください! クロードを返してください!!」
「わああああっ、ブレイラ! ブレイラっ、ブレイラ〜!!」
引き離されてクロードが叫びました。
しかし私は少女と一緒に捕まり、引き離されたクロードは屈強な男たちに連れていかれます。
「待ってください! クロードをどこに連れていくつもりです! クロードを返してください! クロードっ、クロード!!」
「ブレイラ! ブレイラ! ブレイラ〜!!」
クロードは叫びながら礼拝堂の外に連れていかれました。
目の前で扉が閉じられて、クロードの姿が見えなくなって……。
「っ、ああクロード……! ヨーゼフ、あなたを許しません!! クロードを今すぐ返しなさい!!」
目の前が真っ赤に染まっていく。
ヨーゼフに掴みかかろうとして、寸前で背後から羽交い絞めにされました。
でも羽交い絞めにされても何度ももがきます。諦めません。クロードを取り戻すのです。
「離しなさい! 離せと言っているでしょう! 私のクロードを返してください!!」
私は怒りで叫びました。
しかしどれだけ激怒してもヨーゼフたちは不思議そうな顔をしたままです。
「なにをそんなに怒っているのか……。あなたは少し落ち着いた方がいい。また私と語らいましょう。この方も連れていきなさい」
「あなた達は、いったいなんなんですか……っ」
通じない。なにも感じていない。悪意すらない。
私は愕然としました。
こうしてヨーゼフの命令に私と少女も孤児院の地下に閉じ込められたのでした。
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