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第四章・十万年を暴いた男15

■■■■■■■ 「ぅっ…………ぅ」  クロードは部屋の隅っこで正座していた。  しかも下唇を噛みしめてプルプルしている。  ブレイラと引き離された後、クロードは孤児院から出された。  男たちは魔族の子どもであるクロードを毛嫌いし、とにかく孤児院から追い出したいという様子だったのだ。  クロードが連れてこられたのは使われていない古い監獄だった。かつて罪人が監禁されていたと思われる監獄の石牢は薄暗くてかび臭い。がらんとした石牢には木片や瓦礫が打ち捨てられているだけだった。  クロードは石牢の隅っこで縮こまり、自分を責めていた。 「っ、……わたしのせいですっ……。わたしが、わたしがもっとつよかったら……」  ブレイラが連れていかれたのは自分のせいだと責めていた。  だってヨーゼフは言ったのだ。 『その子どもくらいの魔力では、この地下から外部に転移することはできません』  たしかにそう言った。  きっとここにいるのがイスラやゼロスならブレイラを危険な目に遭わせることはなかったはずだ。  イスラやゼロスの強い魔力なら魔力を封じられることはなく、ブレイラを守りながらヨーゼフだって倒していたはずだ。 「ぅぐっ……」  クロードの瞳がじわじわ潤む。  連れ去られるときブレイラは必死にクロードの名を呼んでいた。  叫ぶように何度もクロードの名を呼んで、クロードに向かって手を伸ばしていた。  会いたい。  ブレイラに会いたい……っ。 「ぐすっ」  クロードは隅っこで縮こまってプルプルする。  ここから逃げたいのにどうしていいか分からない。  寂しくて、怖くて、一人ぼっちが心細くて、心と体が縮こまっていく。  もしここに父上や兄上たちがいたら、きっと壁に穴を開けるだろう。鉄格子を破壊するだろう。規格外の魔力、規格外の力。凄まじい破壊力でどんな困難も突破していくのだ。  でも。  でもクロードにその力はない……。  クロードは一人、石牢の隅でじっと縮こまっているしかなかった……。  十万年前の研究室。  ブレイラとクロードが監禁されていた頃、ハウストとイスラとゼロスは研究室で解読作業を続けていた。  だが。 「うわっ、やば〜……」  ゼロスはぱっかり割れた石板に真っ青になっていた。  石板を磨きながら解読作業をしていたわけだが、うっかり力を入れすぎて割ってしまったのだ。  ゼロスは背後のハウストとイスラをちらりと確認する。……よし、まだバレてない。  さり気なく背中を向けて隠し、さり気なく割れた石板を隠すことにした。 「これでよしっ」 「なにがこれでよしだ」 「わあっ、兄上!」  ゼロスは飛び上がった。  いつの間にか背後にイスラが立っていたのだ。  ゼロスがまったく気配を感じなかった。さすが兄上である。  しかもイスラは目を据わらせてゼロスが隠した石板を見た。 「それはなんだ」 「えっと……、それは……。……さ、最初から割れてたような〜……」 「もう一度聞く。それはなんだ」 「はいっ、僕が割りました! 僕がバキッて割りました!」  ゼロスはピンッと背筋を伸ばして答えた。  イスラから闘気を感じて即座に撤回した。これ以上は誤魔化せない。  そんなゼロスにイスラはため息をついた。 「まったく、お前は……」 「ごめんね、ついうっかり。でもさ、この石板の文字を解読したけどたいしたこと書いてなかったよ? 十万年前にこの辺りに住んでた人の日記だった。釣った魚を盗られて夕飯が減らされちゃったんだって。可哀想だね!」 「なにが可哀想だね、だ」 「そんなに怒んないで。ブレイラが形あるものはいつか壊れるって言ってたし。ほんとだよ? ブレイラが言ってたんだよ。ブレイラが」 「……お前、ブレイラの名前を出せば俺が黙ると思ってるだろ」 「そ、そんなことは……」  あると思っている。  父上のハウストと兄上のイスラ。二人は泣く子も黙る魔王と勇者だが、ブレイラにはとことん弱いのだ。もちろん冥王ゼロスもそうであることは否定できないが。 「とりあえず修繕しとけよ」 「えー、もう解読終わってるのに?」 「文句でもあるのか」 「ないですっ。ちょうど修繕したいと思ってました!」  ゼロスはすかさず撤回した。  兄上に勝てないことは生まれた時から知っている。無謀な戦いはしないのだ。  ゼロスは素直に修繕を始めた。ハウストとイスラも作業を続ける。  そんな中、ゼロスがなにげなく口を開く。 「ねえ、ブレイラとクロード、遅くない?」  ぴたりっ。  ハウストとイスラの手が止まった。  そうなのである。ブレイラとクロードがお茶を汲みに行って一時間ほどが経過していた。  ここは遺跡内にあるのでブレイラとクロードはお茶を汲みに行ったついでに他の場所を見学しているのだろうと思っていた。だがそれにしても遅い。遅すぎる。  ブレイラの性格を考えたら、寄り道をしたとしてもこんなに遅くなることはない。クロードがもっと見学したがったとしても、ブレイラなら説得して遅くなる前に戻ってくるはずだ。

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