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第五章・十万年の安寧とその代償3

「わたしのしょうかんじゅう、ちゃんといったみたいですね」  よし、とクロードは石牢で一人頷く。 『わたしのしょうかんじゅう』とか言っているが、正しくはゼロスの召喚獣である。  それというのもクロードがゼロスに召喚魔法を教えてほしいとねだったのだ。しかし今のクロードの魔力では新たに自分だけの召喚獣を契約することはできなかった。  そこでゼロスは自分の召喚獣の中からダンゴムシをクロードに貸してあげたのである。ダンゴムシならクロードの魔力でも召喚に応えてくれるからだ。  しかもこのダンゴムシはゼロスがまだ三歳だった時に初めて召喚した召喚獣である。十万年前の初代幻想王オルクヘルム戦ではゼロスの召喚獣として戦闘に参加していた。ダンゴムシながら実績と経験は豊富で、ダンゴムシ界では英雄的存在といっていいだろう。 『この子、僕の弟。クロードっていうの。仲良くしてあげてね』 『クロードです。よろしくおねがいします』  クロードはダンゴムシにぺこりと頭を下げた。  ダンゴムシを紹介されてちゃんとご挨拶したのだ。その時からダンゴムシは今のクロードが唯一召喚できる召喚獣になった。 「これでブレイラはだいじょうぶです」  父上がブレイラの危機を知れば絶対に助けてくれるのだ。  こうしてブレイラの危機を知らせたら次は自分の番である。このまま何もせずに捕まっているなんて嫌だった。  しかし今のクロードでは何も出来ない。  石牢の分厚い壁はなにをしてもびくともしないのだ。  悔しさに下唇を噛んでプルプルしていたクロードだが、その時。  ――――ドゴオオオオオオ!!!!  目の前の分厚い石壁が吹っ飛んだ。  しかも長い足が見えている。そう、一撃の強烈な蹴りで石壁が破壊されたのだ。  そして。 「クロード、そこにいたのか」 「イ、イスラにーさま!!」  そう、そこにいたのはイスラ。イスラが外から分厚い石壁を破壊してクロードのところに来てくれたのだ。 「にーさま! にーさま! にーさま〜~!」  クロードは感激してイスラにしがみついた。  イスラを見たら安心して瞳がうるうる潤んでいく。もう大丈夫なのだ。 「イスラにーさま、ブレイラがたいへんなんです! ブレイラがつかまってるんです!」 「なんだと?」 「さっきわたしのしょうかんじゅうをちちうえのところにいかせました! ちちうえにしらせようとおもって!」 「お前の召喚獣……」  イスラは少し考えて、パチンッと指を鳴らす。  すると魔力を持ったカラスが出現した。しかも一羽ではなく二十羽以上、もはやカラスの大群だ。イスラの召喚獣である。 「カラス、ですか?」 「頭がいいから偵察向きなんだ」  イスラはクロードにそう説明すると、「餌じゃない、気をつけろよ?」とカラスたちに話しかけた。 「カアア!」  カラスの大群はひと鳴きすると四方に飛んでいった。遺跡の偵察に向かったのだ。  イスラはそれを見送るとクロードを見下ろした。  目が合ってクロードは唇を噛みしめる。嫌な予感がする。 「お前は転移魔法で魔界に戻す」 「やっぱりそういいました〜! いやですっ、わたしもいきます!!」  嫌な予感が的中した。イスラはそう言うんじゃないかと思ったのだ。  しかしクロードは諦めない。 「ここはいろんなところにまりょくふうじがしかけられてるんです! だからわたしもいっしょに」 「この程度の魔力封じで俺の魔力がどうこう出来ると思っているのか」 「…………」  どうこうされてしまったクロードは黙るしかない。  やはりイスラにとってはなんの障害にもならないのだ。  それはイスラとクロードの歴然とした実力差である。きっと今の実力差だけじゃない、イスラが今のクロードと同じ五歳だったとしても魔力封じなどものともしなかっただろう。 「お前は魔界に戻ったらいつも通りしていろ。ブレイラはちゃんと取り戻す」 「いつもどおり……」 「そうだ。剣術の稽古でもしてろ。肘の角度に気をつけろよ? 気を抜くと角度が浅くなる癖があるぞ」 「はい……」  イスラのアドバイスに頷いた。  多忙なイスラにアドバイスをもらえたのは嬉しい。クロードの自慢のにーさまだ。 「にーさまたちはブレイラをさがすんですか?」 「そうだ。ブレイラもすぐに連れ帰る」  実際、イスラの言う通りになるだろう。だって遺跡にはハウストとイスラとゼロスが揃っているのだから。  だからクロードは魔界に戻っていつも通りにしているのが大正解。それはクロードだって分かっている。  でも。 「……わたしもいきたいんですけど」 「駄目だ。足手まといだ」 「うっ……」  きっぱり突き放されてクロードは唇を噛む。  いつものことだと分かっていても悔しい。  二番目のにーさまは甘やかしてくれるけど、一番上のにーさまは厳しいのだ。  でもでもやっぱり諦めたくない。

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