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第五章・十万年の安寧とその代償9

「ギャーッ!」 「ぐあああっ」  襲われた怪物から断末魔があがりました。  なかには人間の声に似た悲鳴もあって堪らなくなる。異形の怪物のなかには人間の形を残したものもいるのです。 「っ……」  私は目を逸らしたくなったけれど、かつて人間だった怪物たちの最期を見つめます。  自分で望んだ人体実験だったとしても、こんな悲しいことはないのですから。  少ししてクウヤとエンキによって怪物が一掃されました。  二頭が私を守るように側に来てくれます。 「ありがとうございます。ハウストが私のところに来させてくれたんですね」 「ワンッ」 「クゥン」  二頭が甘えるように頭をすり寄せてきて、よしよしと優しく撫でてあげます。  ありがとうございます。あなた達のおかげで守られました。  こうして怪物はいなくなり、私はヨーゼフを睨み据えます。 「ヨーゼフ、投降しなさい! これ以上、人間を怪物にすることは許されません!」 「許されないとは傲慢なこと。すべては本人たちの望みです。もちろんこれも!」  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!  足元から地響きがしました。  来ますっ……。地面の下からなにかが……!  クウヤとエンキが警戒して威嚇します。  そして地面が震動したかと思うと地割れが起きて、現われたのは巨人に似た怪物。 「これは巨人……? 違う、なんておぞましいっ……」 「オオオオオオオオオオオッ!!!!」  空気が震撼するほどの咆哮。  その巨人には幾つもの腕や足が生えていたのです。そう、人間のそれが。  以前見た巨人とはまったく違います。神々しさとはほど遠い。 「ま、まさか、あなた巨人まで作ろうとしているのですか!?」 「四大元素の巨人は特別な存在。造ってみたいと思うのは当然でしょう。といっても、こればかりはなかなか上手くいくものではありませんが……。しかしあなたを捕らえるくらいはできるでしょう」 「クウヤ、エンキ、行ってはいけません!!」  ハッとして制止しました。  クウヤとエンキが巨人の怪物に襲いかかったのです。  しかし腕のひと振りで薙ぎ払われてしまう。  巨人は私に狙いを定めて大きな腕を伸ばしてきましたが、その時。 「遅くなって悪かった。下がっていろ」 「ハウスト……っ」  息を飲みました。  私の目の前にハウストの大きな背中。  寸前でハウストが私の前に現われて拳を構えます。そして。  ドゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!  ハウストの強烈な一撃で巨人の巨体に大きな空洞。  巨人は一瞬なにが起きたのか分からないようでしたが、次には瓦礫となって地面に倒れました。 「ブレイラ、無事だったか?」  ハウストは巨人に一瞥もせずに私を振り返りました。  私が無事なのを一番に確かめてほっと安堵の顔になります。 「よかった。怪我はしていないな」  ハウストはそう言って私の頬に触れようとしたけれど、その前に。 「ブレイラ、無事で良かったよ〜!」  ゼロスが勢いよく走ってきました。  しかも私にぎゅ~っと抱きつきます。  割り込まれたハウストは盛大に顔をしかめましたがゼロスは気づいていません。 「ブレイラ、怪我はない? 痛いところは? 嫌な思いしなかった? 大丈夫だった?」  ゼロスはそう聞きながら私の足元から頭まで見回して、「うん、大丈夫そう」と納得するとまたぎゅ~っと抱きついてきました。 「よかった。怪我はしてないみたいだね! 僕、ブレイラになにかあったらどうしようかと思ったよ!」 「心配かけてしまいましたね。ごめんなさい。でも私はこの通り無事でしたから」 「うん、安心した。ブレイラが元気だと僕も元気になるよ」  そう言ってゼロスは笑顔を浮かべました。  私も笑みを返しましたが、ゼロスの体がぐいっと押しのけられる。ハウストです。 「ちょっと父上、なにすんの!」 「なにじゃないだろ。お前は巨人の残骸を回収しろ。調査がいるだろ」 「もう、父上がすればいいのに」  ゼロスが拗ねた口調で言いました。  でもパチンと指を鳴らすとアライグマやゾウやサルやカラスなど手先の器用な動物の召喚獣が現われます。さっそく残骸の回収を始めてくれました。  次にゼロスはクウヤとエンキのところに駆けていきます。 「クウヤ、エンキ、ブレイラを守ってくれてありがと~!」 「ワンワン!」 「ワオンッ!」  ゼロスが抱きついてわしゃわしゃ撫でると、クウヤとエンキも嬉しそうに飛び掛かっていました。  私はそんな相変わらずなゼロスに小さく笑うとハウストに向き直ります。 「来ていただいてありがとうございます。でもクロードが別のところに連れていかれてしまいました」 「クロードなら心配はいらない。イスラが救出した」 「ああ良かったです。イスラが一緒にいてくれているなら大丈夫ですね」  心から安堵しました。  イスラならクロードを守ってくれます。  ハウストは頷くと、私を背後に下がらせてゆっくりとヨーゼフに向き直りました。

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