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第五章・十万年の安寧とその代償10
「心配するな、まだ殺しはしない。貴様には聞きたいことがある」
ハウストとヨーゼフが対峙しました。
ヨーゼフが憎々しげにハウストを睨みます。
「ここは魔力無しの人間の聖地。四界の王に汚されるなどあってはならないというのにっ……。ここから去るがいい!!」
「オオオオオオオオオッ!!!!」
「オオオオオオオオオオオッ!!!!」
いたるところから咆哮が上がりました。
地面が割れて異形の巨人が次々に現われます。
しかしハウストが動じることはありません。
「大人しく捕縛されておけばいいものを。ブレイラ、お前はそこにいろよ」
「はい」
私の足元に魔法陣が出現しました。ハウストの防壁魔法陣です。
そしてハウストはゆっくりとした足取りでヨーゼフに向かって歩きだしました。
「オオオオオオオッ!!」
行く手を阻もうと異形の巨人が襲い掛かるけれど、ドガッ!! ハウストの強烈な拳が一撃で倒していきます。何者も四界の王の歩みを止められないのです。
しかもここにはハウストだけではありません。
「父上~。一体分の検体は回収したから、もう普通に戦っていい?」
「いいぞ。好きにしろ」
「任せてよ」
ゼロスはキリッとした顔で返事をしました。
そして身軽に跳んで礼拝堂の高い屋根に着地します。
そこから異形の巨人を見下ろしました。
「みんな大きいね~。いったいどれだけの人間を使って造ったんだろう……」
ゼロスがふっと憂えた顔になる。
巨人の巨体のいたるところに人間の腕や足など人体の一部が生えているのです。そのおぞましい姿は目を覆いたくなるほど。
しかしゼロスは目を逸らしません。
厳しい面差しで見下ろします。
「大丈夫だよ、誰も苦しませない。痛みも恐怖も感じさせないからね」
ゼロスは慰めるようにそう言いました。
そして次の瞬間、巨人たちの足元が真っ黒になったかと思うと。
ザバアアアアアアアアアアッ!!!!
巨人より更に巨大な地底魔獣に丸のみされました。ゼロスの召喚獣です。
「くじら……?」
私は目を丸めました。
それは一瞬、まるで巨大な穴に吸い込まれたよう。くじらに似た巨大な地底魔獣はまた地中に潜り、地面の下を泳いで異形の巨人を襲いだします。
巨人の足元に現われた黒い影はくじらのぱっかり開いた口だったのです。異形の巨人はきっと自分が食べられたことにも気付いていないでしょう。
「父上、どう? 僕の新しい召喚獣。出会ったばっかりなんだけど、すぐに友だちになれたんだ~」
ゼロスが自慢気に言いました。
ハウストは圧倒的な力を持つ召喚獣にふむと頷きます。
「友だち? そう思ってるのはお前だけなんじゃないか?」
「ひどー。そんなこと言っちゃう?」
ゼロスがむーっと言い返しました。
ゼロスは断固否定しましたが。
ザバアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
地中から巨大くじらがぬっと姿を見せたと思ったらゼロスに向かって突っ込んでいく。しかも巨大な口をぱっかり開けて……。
「……あれどう見ても襲ってますよね」
そう、どう見ても襲っています。
ゼロスは寸前で避けましたが、くじらはゼロスを狙ってまた襲いかかります。
でも今度は避けません。ゼロスはくじらの体当たりを食らって空中に投げ出されるけれど、空中でくるくると回転しました。
「こらこら、今は僕と遊ぶときじゃないでしょ?」
「ガウ、ガアアアアアアアア!!!!」
「まったく、甘えん坊なんだから〜。でもそんなところもかわいいよ」
ゼロスは空中で見事な回転をきめたままくじらを優しく見つめました。
……分かりました。分かりましたよ。
どうやらあの地底くじらの召喚獣はゼロスの召喚獣になったことをまだ納得していないようですね。ゼロスはもう友だちだと思っているようですが口説き中でもあるようです。
「あいつの召喚獣好きも困ったもんだな」
ハウストがあきれた口調でぼやきました。
ゼロスは気に入った動物を見つけるとすぐ自分の召喚獣にしたがるのです。
ゼロスは動物に好かれる体質なので相手が魔獣や幻獣や神獣だったとしてもすぐに仲良くなって召喚獣になるのですが、ごくまれに召喚獣になることを断固拒否する孤高の動物もいるのです。きっとこのくじらは思い通りにならず、とりあえず実力行使で手に入れたようですね。そして今はじっくり口説いているようですが……。
ゼロスは笑顔で暴れるくじらを口説きます。
「ごめんね。怒ってるよね。僕も君を毎日構ってあげたかったんだけど、ちょっと忙しくしてたんだ。帰ったら相手してあげるから機嫌直してよ」
「ガウアアアアアアア!!!!」
「わかったわかった。拗ねない拗ねない。もう仕方ないな~」
ゼロスは軽い調子で笑っていますが、くじらの凄まじい動きによって遺跡にいた異形の巨人たちが次々に倒されていきます。
ゼロスがじゃれながら攻撃をいなしていたのです。
でもふとゼロスがぴたりと立ち止まりました。
そして自分に突っ込んでくるくじらを正面から見据えます。
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