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第五章・十万年の安寧とその代償12
「よかった。ブレイラが無事で安心した」
「誰の防壁に入っていたと思うんだ」
ハウストが当然のように言いました。
ふふふ、そうですね。ハウストの防壁は四界で一番安全な場所です。もちろんイスラやゼロスの防壁も。
ふとその時、イスラとクロードが姿を見せました。
クロードが私を見つけるとパァッと顔を輝かせます。
「ブレイラ〜!!」
「クロード……!」
クロードを見た瞬間、私の胸がいっぱいになりました。
無理やり引き離されて叫んでいたクロードが目に焼き付いています。でも今、クロードが大きな声で私の名を呼び、ぴゅーっとまっすぐ走ってくる。
「ブレイラっ、ブレイラブレイラ!!」
「クロード! クロード、クロード!」
「ブレイラ〜!!」
「クロード!」
私が両腕を広げて迎えると、クロードが私にぎゅ~っと抱きついてきました。
クロードは涙ぐんで私の肩に顔をうずめます。
「ブレイラっ、ブレイラ……! うぅっ」
「クロード、良かった。無事で本当に良かったです。怖かったでしょう? あなたを一人にしてごめんなさい」
「ううん。だいじょうぶですっ。でもブレイラが、ブレイラが……。わたしがブレイラをまもらなきゃダメだったのに……!」
「クロード、辛い思いをさせました」
私はクロードの顔を覗きこみました。
可哀想に、唇を噛みしめて涙目になっています。たくさん怖い思いをさせてしまいました。
クロードは私を守れなかったことを気にしてくれるけれど、この子はまだ五歳。私はクロードを一人にしてしまったことに胸が痛い。
私はクロードをぎゅっと抱きしめてイスラを見つめました。
「イスラ、クロードを助けてくれてありがとうございました」
「助けないわけにはいかないからな」
「はい、私たちの大切な末っ子です」
ゼロスも無事だった弟に安心した顔になります。
「クロード、ちゃんと召喚獣だしてえらかったね。はい、ダンゴムシ」
「あ、わたしのしょうかんじゅう! ちゃんとつたえてくれたんですね」
「うん、ちゃんと仕事してたよ。仕事したらちゃんと褒めて召還してあげて」
「はいっ。ありがとうございました。ゆっくりやすんでください」
そう言ってクロードはちゃんとダンゴムシを召還しました。
頭上ではイスラの召喚獣も旋回しています。
イスラが頭上を見上げると旋回していたカラスが下りてきました。
「よく食べなかったな。戻ってもいいぞ」
「カアッ」
イスラの召喚獣も召還されていきました。
イスラはクロードを救出したことを召喚獣でハウストたちに知らせてくれたのですね。
こうして家族が全員揃いました。離ればなれになっていたクロードが無事に戻ってきて本当に良かったです。
「よかったですね、ハウスト。……ハウスト?」
目をぱちくりさせてしまう。
ハウストを振り返って、彼がいつもの様子でないことに気づいたのです。
どうしたのかと声をかけようとしましたが、その前にハウストがゆっくり前に出ました。そう、クロードの前に。
でもクロードはハウストの様子が変わっていることに気づかず、いつもの調子で話しかけます。
「ちちうえ、わたしのダンゴムシちゃんといきましたよね! ちちうえたちにしらせなきゃっておもったんです!」
クロードは嬉しそうに報告しました。
父上やにーさまたちに無事に会えて嬉しいのです。
しかしそんなクロードの顔がみるみる変わっていきます。ハウストが厳しい面差しで見ていることに気づいたのです。
そして。
「お前、なんのつもりだ」
「っ……」
ハウストの低い声にクロードが息を飲みました。
怯えたように目を見張ります。
「ち、ちちうえ……」
「どうしてブレイラが攫われた。なにをのん気に捕まっていた。お前、自分が何者でなければならないか分かっているのか」
ハウストは厳しい顔で、心底呆れたとばかりの声で言いました。
そんなハウストの言葉にクロードは一瞬で青褪めます。
クロードは次代の魔王なのです。当代魔王のハウストは今のクロードの現状は問題だと思っているのです。
でもクロードはまだ五歳です。私は庇ってあげたくなる。
「ハウスト、そこまでにしてあげてください。クロードだって」
「お前は黙ってろ」
「ハウスト……」
ぴしゃりと遮られて私も口をつぐむ。
この問題に口出しするなと言いたいのですね。
たしかにこれは四界の王としてのハウストとクロードの問題でした。
静かに引き下がった私に気づいてクロードは唇を噛みしめます。じんわり涙ぐむクロードに胸が締め付けられるけれど、この問題で出過ぎた真似はできません。
クロードはおそるおそるハウストを見上げます。
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