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第六章・レオノーラの目覚め4
「レオノーラの上昇は結界強化によって一時的に押さえられていたが、ヨーゼフの騒動と同時にまた上昇が確認されるようになった。現在、熱反応は海面からわずか二キロの距離まで迫っている。海面に姿を現わすまで、おそらくあと三日といったところか……」
「三日? そんなに早く……っ」
「そう御母上、たったの三日です。三日後、あの海域に祈り石になったレオノーラが姿を現わす。どんな姿で現れるのかは不明ですが、たしかにそれはレオノーラです」
緊張が走りました。
三日後、レオノーラがとうとう姿を現わすというのですから。
張り詰める空気の中、初代精霊王リースベットが口を開きます。
「ああ、残念だがその時はくるようじゃ。レオノーラは祈り石になる前、限界は必ずくると言っていた。それが十万年後の今ということじゃ」
「レオノーラ様……」
祈り石の力は絶大ですが永遠を約束するものではありません。
レオノーラはいつかこんな日がくることを予見していたのでしょう。
リースベットは広間の扉を見ました。
「そろそろ来たようじゃ」
リースベットがそう言うと扉がノックされました。
ハウストが入れと許可します。
すると扉が開いて、兵士に連行されてきたのはヨーゼフ。
私は息を飲みました。ヨーゼフは魔界に連行されて尋問されていたのです。
「われもどうしても顔を見たくてな。地下牢からここに連れてこさせた」
リースベットはそう言うとヨーゼフの前に立ちます。
「ヨーゼフ、いや、われらはゲオルクと呼んだ方がいいか? 十万年ぶりじゃな」
「貴様が十万年前の精霊王か。そしてそこの男が初代魔王。死の褥より蘇った気分はいかがかな?」
ヨーゼフが憎々しげにデルバートとリースベットを睨みました。
十万年前、ゲオルクの野望を砕いたのは初代四界の王です。レオノーラと初代四界の王がいなければ星は終焉を迎えていました。
ヨーゼフは口元をニヤリと歪めます。
「私のなかのゲオルクがお前たちを殺せと叫んでいる。許すなと呪いの言葉を撒き散らしている。でもご安心を、私はゲオルクであってゲオルクではありません。移植した脳の命令をねじ伏せ、レオノーラ様への信仰をまっとうするためにこの時代を生きている! レオノーラ様の祈り石が限界を迎えるこの時代に生まれたことこそ私の幸運!!」
「目的はなんじゃ。なにを考えて魔力無しの人間の子どもを集めていた。レオノーラの復活でなにを狙っている」
リースベットが厳しく問いました。
ヨーゼフの不可解さにリースベットは薄気味悪さを覚えているようでした。
しかしヨーゼフは恍惚とした顔で語ります。
「狙う? 愚かな……。そんな邪な思いでレオノーラ様を思ったことはない。レオノーラ様を尊び、その願いを叶えることこそ私の役目」
「それだけなのか、本当に。それだけのためにあれだけの人に人体実験を……っ」
「当然です。レオノーラ様をお迎えするためには、レオノーラ様に忠実なしもべが必要ですから。今までのゲオルクの脳はゲオルクの野望に忠実に従って人体実験をしていたようだが、私は違います。すべてはレオノーラ様のため」
狂っています……っ。
ヨーゼフは本気なのです。本気でそのためだけに人体実験で異形の怪物を生み出し続け、魔力無しの子ども達を集めていたのです。
「私が集めた孤児院の子ども達はどうしましたか? あの子たちに厳しい現実を突きつけないでくださいね。あの子たちは来たるべき日のためにたっぷり甘やかしたんですから」
ヨーゼフはそう言いながらハウスト、イスラ、ゼロスを見ました。
そして予言のような言葉を口にします。
「特にあなた方はあの子ども達に感謝する日がくるでしょう」
ヨーゼフの言葉にハウストはスゥッと目を細めます。
「どういう意味だ」
「じきに分かりますよ」
「不愉快だ。そろそろいいだろう。連れていけ」
ハウストが命じるとヨーゼフが連行されていきます。
ヨーゼフが広間からいなくなると少しだけ空気が軽くなった気がしました。底知れぬ不気味さを纏った男なのです。
ハウストが広間にいる面々を見て、これからのことを話します。
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