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第六章・レオノーラの目覚め9

「ブレイラ、もっとおはなしきかせてください! イスラにーさまとゼロスにーさまのおはなし、もっとききたいです!」  クロードが身を乗りだすように私の顔を覗きこみました。  キラキラした瞳で私を見つめてくれます。  私はにこりと微笑んで、クロードの小さな体を膝に乗せてあげました。  正面から抱っこする格好になってクロードは照れくさそうにはにかみます。  いい子いい子と頭を撫でてあげると私にぎゅっと抱きついてきて、甘えるように柔らかなほっぺですりすりしてきます。なんて可愛らしいんでしょうね、まるで子猫が甘えているようです。 「どんな話しをしてあげましょうか。砂漠の国へ行った話もいいですし、氷の国へ行った話もいいですね。それともゼロスが生まれた時の話をしましょうか」 「ぜんぶききたいです! ちちうえのおはなしも、にーさまたちのおはなしも、いっぱいききたいです! わたしがうまれるまえって、どうしてたんですか!?」 「ふふふ、いいですよ。たくさん聞かせてあげます。そうですね、ではまず砂漠の国の話から聞かせてあげます。これは私がハウストと婚約したばかりの頃のことです」  そう言って私は懐かしい思い出を語って聞かせます。  クロードは自分が生まれる前の話に興味津々でした。特にイスラやゼロスが子どもだった時の話がお気に入りのようですね。そこに子どもの扱いに慣れないハウストのエピソードが加わるとおかしそうに笑いだします。「ええ、ちちうえってそんなことしたんですか? ダメじゃないですか〜」と楽しそうに呆れています。  クロードにとって父上も兄たちも見上げるような存在なので、子ども時代の話しを聞くと安心するのでしょうね。安心して、ほっとして、肩から力が抜けるよう。  クロードが大きなあくびをしました。でもハッとしてあくびをかみ殺す。  ほっとしたら眠くなったのですね。魔界に帰ってきてからもずっと気持ちが張り詰めていたのでしょう。 「眠いのですね。眠ってもいいですよ?」 「ね、ねむくないです」 「ほんとうに?」  ん? と顔を覗きこむとクロードが困ったように視線をうろうろさせました。 「でもわたし、ブレイラのおはなしあいてだから……」 「ありがとうございます。私のこと気にしてくれているんですね」  いい子いい子と頭を撫でると、クロードはくすぐったそうに目を細めます。  でも瞼は重くなっているようで、またあくびを一つ。 「ではこのままあなたを抱っこさせていてください」 「……おはなしは?」 「じつは私とても疲れているんです。でもあなたを抱っこしていると疲れが癒えていくんですよ」 「ほんとですか!?」  クロードがパッと私を見上げました。  私はニコリと笑いかけてクロードの額にちゅっと口付けます。 「ほんとうです。こうしているだけで私は心が休まるのですよ。クロードのおかげですね」 「ブレイラ〜っ」  クロードがぎゅ~っとしてくれたので、私もぎゅ~っと抱きしめました。  クロードは照れくさそうにしながらも私にすりすりして甘えていましたが、やはり睡魔には勝てないようですね。  瞼が重くなって、うとうとして、すやすやと眠っていきました。すうすうと気持ちよさそうな寝息に目を細めます。 「ふふふ、かわいいですね」  あんまりかわいい寝顔なのでなでなでしてあげました。  私は眠るクロードを抱っこしていましたが、少しして扉に向かって静かに声をかけます。 「いるんですよね。入ってきたらどうですか?」  カチャリ。扉が開く音。  こちらに向かってくる気配。振り返らなくても誰が入ってきたのか分かります。 「ずっとそこにいたんですか? 入ってこればよかったのに」 「……。……さっき来たばかりだ」  そう言いながらハウストが私の隣に腰を下ろしました。  座っていたソファが揺れて、さり気なくハウストに肩を寄せました。 「ふふふ、うそばっかり。クロードに気を使ったんですか?」 「そんなつもりはない」 「そういうことにしておきましょう」  私はクスクス笑いました。  あなた、クロードが気になっていたんですよね。  イスラやゼロスが幼かった時もそうでした。子どもたちを叱ったあとも子どもたちの様子を気にしてくれたのです。 「クロードは眠ったのか」 「はい、疲れていたようですね。気持ちよさそうでしょう?」 「落ち込んでいたんじゃないのか。のん気すぎだろ」 「またそんな言い方して。悩んでいるから眠るのです。起こしてはいけませんからね?」 「分かっている」  ハウストは口元だけで笑いました。  そして私を見つめ、そっと肩を抱き寄せてくれます。

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