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第六章・レオノーラの目覚め10
「ハウスト……」
私はハウストの肩に凭れかかって、甘えるようにすり寄りました。
するとハウストが私の額に口付けてくれて顔を覗きこんできます。
呼吸がとどくほどの近い距離。見つめ合ったままハウストが私の唇に唇を触れあわせました。
触れるだけの口付けを繰り返して、互いにふっと笑いあう。
「ブレイラ、いつもありがとう。感謝している」
ハウストはそう言うとクロードを見ました。
そんなハウストに目を細めます。
「私にできることをしているだけです。あなただって気にしてくれていたじゃないですか」
「そんなつもりはないが……」
「あ、まだ認めないんですか?」
クスクス笑ってそう言うと、むむっとハウストが眉間に皺を刻みます。
私は彼の眉間の皺を指でもみもみして、その目元をそっとなでました。少し疲れが見えていますよ。
「あなたこそお疲れじゃないですか? 魔界に帰ってきてからずっと働き詰めですよね。ここで少し休んでいきますか?」
ハウストを見つめて聞きました。
人間界で騒動が起きてからハウストは休む間もなく働いています。魔王はすべての魔族の保護者、魔界を守らねばなりません。
私はハウストの腕にそろそろと手を伸ばし、きゅっと袖をつまみました。
「休んでいってください。少しでいいので」
「ありがとう。だが片付けておきたい案件があってな」
「だめです。少しでいいのでここにいてください。少し目を閉じているだけでも楽になりますから」
そうお願いするとハウストがむむっと顔をしかめます。
分かっています。今は一分一秒も無駄に出来ないのですよね。でも少しでいいのです。
私があなたを思うのは魔王だからではありません。あなたがハウストだからです。だから少しだけ……。
「ハウスト」
そっと呼びかけると、ハウストが長く息を吐きました。それは諦めのため息。
そしてずるずると体を傾けて、私に凭れたままそっと目を閉じました。
「二十分経ったら起こせ」
「分かりました」
観念してくれたハウストに笑いかけます。
こうしてハウストの甘やかな重みを感じ、私もそっと目を閉じました。
■■■■■■
魔王の城の外。
イスラとゼロスは初代勇者と初代幻想王を復活させる役目を担って出てきたわけだが。
「兄上、どうしよう~! 僕、初代幻想王が葬られてる場所なんて知らないんだけど!」
さっそく泣きついていた。
イスラは盛大に顔をしかめる。
「冥王ならなんとか出来るんじゃないのか」
「無理に決まってるでしょ! 冥王でも出来ることと出来ないことがあるの! 十万年前の墓標なんてあるわけないでしょ! 分かんないの!?」
「なんだその口の利き方は」
「すみませんでしたっ」
ゼロスは即座に謝った。
兄上にぎろりっと睨まれると怖いのだ。
しかしここで怯むことは出来ない。なんとしても初代王全員を復活させなければならない。
だが二人に課せられた初代王の復活は、他の初代魔王と初代精霊王とは違っている。そう、明確な墓標がないのだ。
初代勇者は港町の丘だとおおよその予測はあるが、初代幻想王にいたっては予測すらない。なぜなら一度幻想界そのものが滅亡しているからである。
現在の冥界はゼロスの誕生によって創世したもので、それ以前の幻想界も冥界も大地ごと粉々になって滅亡したのだ。はっきりいって創世した冥界に初代幻想王オルクヘルムの墓標などあるわけないのである。
しかし冥王ゼロスは「行ってくるね」と自信満々に出てきた。冥王なんだからなんとかなるだろという気持ちもあったし、あの緊迫していた広間で「無理です」なんて言えなかったのだ。
イスラは呆れた顔になる。
「それで、見当もついてないのか?」
「ついてない。全然ついてない」
「冥界になにか感じたりしないのか?」
「ぜんぜん。僕の冥界は異形の怪物の騒動もないし、今日も平和だよ?」
「それは良かったな。じゃあなんで初代王を復活させられるみたいな顔して出てきたんだ」
「だって、いっぱい人がいるとこで出来ないなんて言いたくなかったし、みんな真面目な顔してたし、ブレイラも僕を応援してるし。期待に応えたいって思うものでしょ?」
「お前な……」
「兄上だってブレイラが応援してたら出来ないなんて言えないでしょ?」
「当たり前だ」
イスラはきっぱり答えた。
ゼロスもうんうん頷く。兄上なら分かってくれると思っていた。
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