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第六章・レオノーラの目覚め11

「兄上は初代幻想王ってどこにいると思う? だいたい父上と精霊王も簡単に言ってくれるよ。いいよね、自分たちのとこは玉座の真下に埋葬されてたんだからさ」  簡単でいいよねとゼロスは唇を尖らせて愚痴を言う。  それにはイスラも無言で肯定した。  実際、難易度が違うのだ。初代勇者の墓標はおおよその位置が絞れてきたが、初代幻想王にいたっては予測すらできない。 「冥界は一度消滅してるし、絶対粉々になってるよ。もう影も形もないんじゃないかなあ」  ゼロスがうーんと腕を組んで悩んだ。  そんなゼロスにイスラはため息を一つつく。 「お前、奇妙だと思わないのか」 「奇妙ってなにが? 父上たちが僕に無理難題押し付けたこと?」 「そうじゃない。デルバートのことだ。あいつ、ヨーゼフになんの反応もしなかった」 「え?」 「俺ならヨーゼフを殺してる」 「ええっ?」  ゼロスが目を丸めてイスラを見つめる。  意味が分かっていないゼロスにイスラはまたため息をつくと、「よく考えてみろ」と違和感を話しだす。 「デルバートはレオノーラを愛している。それは今でも変わらない。しかし十万年前はレオノーラを封印せざるをえなかった。その原因を作ったのはゲオルク、そして現在はヨーゼフだ。そんな男が目の前にいたのになんの反応もしなかった」 「ああなるほど、たしかに。もしレオノーラがブレイラだったら、僕なら殺してる」 「だろ。それなのにデルバートはヨーゼフの狂った口上を聞いても微動もしなかった。もしそれに理由があるなら」  イスラがそこで言葉を切った。  ゼロスも険しい顔で頷く。 「利害が一致している時」 「そういうことだ。デルバートがヨーゼフを放置するのは、ヨーゼフと目的が一致しているからだ」 「それじゃあデルバートはレオノーラを復活させたいっていうこと?」 「そう考えるのが自然だろ」 「ハハッ、参ったな……」  ゼロスが肩を竦めて笑った。  事態は想像以上に面倒なことになりそうだ。なにせレオノーラが復活すれば星は終焉を迎えるのだから。 「兄上、どうすんの。デルバートが裏切るかもしれないってことだよね」 「まあな。確証はないが、限りなく可能性が高いとみていいはずだ。だからこの時期にハウストは俺とお前を自由に動けるようにしたんだろ」 「あっ」 「そういうことだ」  イスラは頷き、じろりとゼロスを見る。 「……お前、本気で気づいてなかったのか?」 「えっと……。いつ父上と話し合ったの?」 「そんなものするか」 「ええ……」  ゼロスは空を仰いだ。  自分も十五歳になって父上や兄上と同じ目線になったと思っていたのに、どうやらそうではなかったらしい。同じ景色を見ていたつもりになっていたのはゼロスだけで、追いついたと思った目線はまだまだ高かった。 「お前はまだ甘いんだ。もっと観察しろ。足りてないぞ」 「はい」  ゼロスは少し悔しそうながらも返事をした。素直なのはゼロスの美徳である。  そして切り替えが早いのも。 「で、兄上、どうすんの?」 「人間界へ行って勇者の宝を回収する。お前も手伝え」 「初代王を蘇らせなくていいの?」 「もちろん考えない訳じゃない、優先順位の問題だ。たしかに当代四界の王と初代四界の王が揃えばレオノーラの復活を一時的に遅らせることはできるかもしれない。そもそもレオノーラを十万年も封印できたのは、礎になった初代王の玉座を代々の四界の王が引き継いできたからだ。だが、いずれ限界がくることは十万年前から分かっていた」 「そっか、だから当代と初代が揃っても一時的なんだね」 「まあな。その一時的な期間が百年なら現在を生きる俺たちにとっては幸運だ。すべてを未来に託して死ねるからな。だが恐らく」 「……百年は都合よすぎだね」 「そういうことだ。とりあえず勇者の宝を回収する。初代王を全員復活させることも大事だが、デルバートが不安要素になる可能性があるなら、こちらも手札を増やしておきたい」 「保険みたいな?」 「そうだ。行くぞ」  イスラが転移魔法陣を発動させる。  ゼロスも一緒に人間界へ転移するが、その間際に遠くに見える魔界の城に目を向けた。 「デルバートがレオノーラを愛してるのは分かるんだけど、星の終焉まで望んでると思えないんだけどなあ」  ゼロスはむむっと呟いた。  初代魔王デルバートは命を削って世界を四つに分ける結界魔法を発動させたのである。  レオノーラの望みだったとはいえ、それは星を、世界を、四界を、魔族を、すべての生命を守るためのものだった。  現在に蘇ったデルバートもレオノーラの復活を望んでも星の終焉までは望んでいない、ゼロスはそんな気がしていた。  でもそれは矛盾というもので、ゼロスは結局なにも言えないのだった。 ■■■■■■

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