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第六章・レオノーラの目覚め19
「…………この祈り石の力なら、異形の怪物と化した人たちを元に戻せるのですか?」
「祈り石の力は魔力とは根本的に違う。祈り石が起こすのは奇跡、それは絶対不可能を可能にする力だ」
デルバートが静かに私を見つめます。
私はデルバートの手のひらに乗った祈り石をじっと見つめました。
デルバートの言葉はきっと真実なのでしょう。祈り石なら異形の怪物になってしまった人たちを元に戻すことができるはずです。
私はレオノーラが祈り石になった時のことをよく覚えています。レオノーラは星の終焉を食い止めるために祈り石になりました。それはこの星の生きとし生けるものを守るため。そんなレオノーラならきっと躊躇わないでしょう。
「分かりました。レオノーラ様の祈り石を私に」
ゆっくり手を伸ばし、デルバートの手から祈り石をとりました。
不思議ですね。初めて見るものではないのに、まるで初めてのように緊張しました。気を抜くと手が震えてしまいそう。
でも両手でぎゅっと握りしめ、目を閉じて胸の前へ。
手中に馴染む感触。懐かしさを覚えるのは、これがレオノーラ自身だと分かるからですね。
「レオノーラ様……」
ゆっくり目を開ける。そして少女のお姉さんである異形の怪物を見つめました。
「ガアアアアアア! グギギギギッ!」
怪物が雄叫びをあげていました。
近衛兵の呪縛魔法から逃れようと暴れますが、頑丈な鎖の拘束が緩むことはありません。
ここで怪物が元の姿に戻らなければ討伐されるでしょう。それは少女のお姉さんが殺されるということ。そして魔族の兵士が同胞の魔族を殺すということ。
それだけはここで食い止めなければなりません。そうでなければ魔界は、いいえ四界すべてが絶望と悲しみに沈むでしょう。
私は暴れる怪物を見つめたまま一歩一歩近づきました。
拘束された怪物と対峙した私にコレットや近衛兵たちが動揺します。
「ブレイラ様、お下がりください! 近づいてはいけません!」
「もし王妃様の身になにかあったら……!」
コレットや近衛兵が私を引き留めようとします。
でもごめんなさい。今は聞き分けられません。
私は胸の前で祈り石を握りしめて強く祈ります。異形の怪物になってしまった少女のお姉さんのために。
「レオノーラ様、どうか私に力を貸してください」
レオノーラに語りかけ、異形の怪物の前に祈り石をかざしました。
そして怪物を見つめたまま強く祈ります。
「不可能を可能にする石よ、十万年の時を越えた祈りよ! ここに力を示しなさい!!」
瞬間、祈り石からまばゆい光が放たれました。
視界を白く塗りつぶすほどの強烈な光。
異形の怪物は動きを止めたかと思うと、光に向かって小さく震えながら手を伸ばしました。救いを求めるように、縋るように、少しでも光に近づこうとするように。
祈りが聞こえているのですね。光が届いているのですね。
「あなたを浄化し、ヨーゼフから解放します」
私は異形の怪物に向かって手を伸ばしました。
指先でそっと触れた瞬間、異形の怪物がみるみるうちに姿を変えていきます。そう、元の姿に。
光が徐々に収まって、私は元に戻った少女に向かってゆるりと笑いかけました。
「祈りは届き、願いは叶えられました。もう大丈夫ですよ」
怪物だった少女が驚愕の顔で私を見つめました。
でも瞳に涙が滲んで、光が差すように喜びが溢れだす。
「王妃さま、わたしは、わたしはっ……」
「辛かったですね。でももう怪物になることはありません」
「ありがとうございますっ、ありがとうございます……!」
「お姉ちゃん!」
少女が泣きながら怪物から戻ったお姉さんに抱きつきました。
姉妹はしっかり抱きしめあって、また会えた喜びに泣きじゃくっています。
そんな姉妹の姿に私は目を細めましたが、周囲で見ていた人々がぽかんと口を開けて私を見ていることに気づきます。
「奇跡だ……。王妃様が奇跡を起こされた……」
一人が呆然と言いました。
その一人を皮切りに、次々に人々が声を上げだします。
「王妃様だ。王妃様が奇跡の力で怪物を元に戻したんだ!」
「おおっ、王妃様! 王妃様……!!」
「どういうことだっ。王妃様は魔力無しの人間だというのに、このような奇跡をっ……!」
「王妃様こそ奇跡の存在っ!!」
奇跡を目にした人々の顔が期待と希望にきらめきだしました。
そう、人々は絶望の闇の中に希望の光を見たのです。
興奮した人々がワアッと私に駆け寄ってきました。
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