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第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~7
「勇者の宝は人間界を守るためのものだ。歴代勇者もそのつもりで力を残してきた。レオノーラの件については俺だけで充分だ」
「え、僕たちが力を合わせて結界強化しても無理だったのに?」
ゼロスが思わず聞いた。
そう、当代四界の王と初代魔王と初代精霊王が結界を強化してもレオノーラ復活を防ぐことはできなかった。そのため、イスラとゼロスが人間界に来たのは勇者の宝の回収だ。レオノーラ復活に備えるためである。
「俺を誰だと思っている。歴代最強の勇者だぞ。勇者の宝がなくても俺一人で充分だ」
「えー」
「なんだ」
「なんでもないですっ」
ゼロスが即座に首を横に振った。
イスラにぎろりっと睨まれれば撤回するしかないのだ。
「行くぞ。初代勇者の墓標に」
「復活させるんだね」
「ああ、まず墓標探しだ。見つけ次第ハウストとフェルベオを呼ぶ」
「分かった」
こうしてイスラとゼロスは転移魔法を発動させる。
二人が想像していたよりも人間界の混乱は酷いものだった。それは魔界と精霊界も同様だろう。
ましてブレイラが希望となりえるなら、四界中の人々がブレイラに縋るだろう。そうなれば四界は混沌と化す。いや、魔界はもうそうなっている可能性がある。
「イスラ」
ふと転移する寸前にアベルが呼び止めた。
イスラが振り返るとアベルがぶっきら棒に礼を言う。
「悪かったな。感謝する」
転移する寸前の礼。
イスラは苦笑し、ゼロスはニコリと笑って転移した。
そう、行き先は初代勇者の墓標がある丘である。
■■■■■■
魔界、夕暮れの頃。
私は魔界の城の奥の部屋にいました。
いつもいる部屋よりもさらに奥。城の庭園すらも遠い奥まった部屋です。
ハウストが許可した人物としか会うことは許されていません。ほぼ軟禁状態といってもいいでしょう。
しかしそれは私も承知しています。
今、魔界中の魔族が私の祈り石に救いを求めて城の城門に押し寄せているのです。
私のいる部屋まで外の騒ぎは聞こえませんが、それでも城は大変な混乱状態だということは分かっています。
「ブレイラ様、お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます」
コレットが紅茶を淹れてくれました。
礼を言って笑いかけたけれど、コレットは少し困った顔になります。
「……ブレイラ様、ご無理なされないでください」
「無理なんてしていませんよ」
「憂えた顔をしています」
「……ごめんなさい。気遣わせました」
私は自分の頬に触れました。
いけませんね、少し強張っていたかもしれません。
でもコレットはますます困った顔をしてしまう。
「ブレイラ様、私はブレイラ様をお支えするために側にいます。もちろん最側近としての役目もありますが、それ以上にブレイラ様だからお支えしているのです。どうか私の前でまで御心の憂いを隠さないでください」
「コレット……」
かたわらのコレットを見上げると優しく笑んでくれました。
私の心のうちにあった重たい塊が少しだけ軽くなります。
「そうでしたね、ありがとうございます。でもそんなこと言ってもいいんですか? 八つ当たりしてしまうかもしれませんよ?」
「古来より妃が臣下に八つ当たりすることは常識ですよ。とんでもないワガママをすることも。書物に書いてありました」
「ふふふ、そういえば私もゼロスが幼い時に絵本で見せてもらいました」
そう言って私とコレットはクスクス笑いあいました。
ふっと肩の力が抜けるよう。
そんな私にコレットも安心してくれます。
「ブレイラ様、この魔界でブレイラ様を思っているのは私だけではありません。北離宮の女官や侍女たちもブレイラ様を思っています。さっきもブレイラ様の御心は大丈夫なのかと北離宮の女官たちに問われました」
「そうでしたか。こんな時だというのに、なんだか嬉しいですね」
私は目を細めました。
北離宮のことを思いだします。
あそこはかつて私にとって辛いだけの場所でした。
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