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第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~14

「あ、あの、もしもし? ちょっといいかな」 「ああ?」 「なんだこいつ」  ギロリ。ギロリ。イスラと初代イスラがギロリと振り返った。 「そ、そんな顔しても怖くないからね! 受けて立つ!」  ゼロスは青褪めながらも身構えた。戦闘態勢だ。  ここで引き下がっては冥王の名が廃る。歴代幻想王と歴代冥王の名誉のためにも当代冥王ゼロスは戦うのだ。  だがそんなゼロスを初代イスラが不思議そうに見たかと思うと。 「おい、このガキは誰だ」 「え、ほんき? そこから?」  ゼロスはがっくりきた。  まるで初対面のような反応だ。  初代イスラがイスラを見た。説明を求めているのだ。 「これは俺の弟、ゼロスだ。お前も知ってるだろ。初めて会った時はまだ三歳の子どもだ」 「……。ああ、あのうるさいガキか」  今思いだしたとばかりに初代イスラが頷いた。  その反応にゼロスは「なにそれっ」と不満だ。せっかく勇気をだしたのに。  だが仕方ないのである。当時のゼロスはまだ三歳。ゼロスの方は恐怖の思い出が刻まれているが、初代イスラのほうは三歳など相手にしていなかった。初代イスラからすれば冥界自体が謎の世界で、ましてや冥王などと名乗るのは三歳児の戯言だ。幼くても四界の王としての覚醒は認めていたが、それでも三歳を本気で構う気はなかったからだ。  だが今、あの三歳の子どもは成長した。そしてこの時代は初代イスラの時代ではない。  初代イスラは世界を見渡すように視線を流し、最後に大海原を見た。  この丘は人間界でもっともレオノーラに近い場所。初代イスラが見つめる先にレオノーラが沈んでいる。 「レオノーラの復活が近いようだな」 「分かるのか」  イスラが感心したように言った。  初代イスラはふんっと鼻を鳴らす。 「当然だ。だから俺がここにいる。俺はレオノーラの勇者だ」 「レオノーラの勇者?」 『レオノーラの勇者』さらりと告げられたが、いやに重く響いた言葉。  聞き返したイスラに初代イスラが当然のように答える。 「最期の時、ここでそう誓った。俺の存在はレオノーラのためのもの、それだけだ」 「そうか……」  イスラは初代時代の禁書に記されていた初代イスラの最期を思いだした。  そして勇者が血筋ではなく卵から誕生する理由も。それは祈り石になったレオノーラが人間のために残した慈悲だ。  初代イスラの誓いをレオノーラが受け入れ、勇者は求められる時代に卵となって現われ、その時代の魔力無しの人間によって孵化するのだ。  二人の勇者は言葉もなく対峙したが、ゼロスが「あっ、そっか!」となにかに気づいてポンッと手を打つ。 「だから透けてるの? レオノーラがまだ復活したわけじゃないから蘇らないってこと?」 「当たり前だ。レオノーラがいない世界に俺は復活しない」 「それじゃあ、どうして僕たちの前に出てきてくれたの?」  ゼロスはなにげなく聞いた。  だが初代イスラがそれに答えることはない。 「ねえ、どうして?」 「…………」  涼しい顔で無視する初代イスラ。  しかしゼロスは諦めない。だって気になるのだ。 「ねえねえ、どうしてってば」 「…………」 「聞こえてるでしょ。教えてよ、どうして僕たちの前に出てきてくれたの? ねえねえ」 「しつこいぞっ。俺が姿を現わすことができたのはレオノーラの復活が近いからだ。四界全土に影響が波及しているだろ。その影響を受けただけだ!」  初代イスラが苛立ちとともに答えた。  実際、海底から上昇する熱反応が発見される前から四界に不自然な災厄はあった。最初は井戸の水が枯れるなど些細なものだったが、しだいに一夜で地形や河川の形が変わるなど徐々に規模が大きくなっていったのだ。  それがレオノーラ復活の影響だというなら、レオノーラと因縁のある初代イスラに影響していても違和感はない。  でももちろんゼロスは納得いっていない。だってそれはゼロスの聞きたいことじゃないのだ。ゼロスは訝しげに初代イスラを見る。 「それは分かるけどさあ。僕が聞きたいのは出現した方法じゃなくて、どうして僕たちの前に来てくれたのかってこと。だってまだレオノーラ復活してないのに」 「…………」  初代イスラが目を据わらせた。  ぎろりっと睨まれたゼロスは「えっ、なんで怒るの!?」と竦みあがった。訳が分からない。  そんなゼロスと初代イスラのやり取りにイスラはニヤリと笑う。 「ゼロス、勘弁してやれ」 「え、兄上は分かってるの?」 「さあな。だがもういいだろう」  イスラはそう言うと改めて初代イスラを見た。 「巨人もどきを倒すためにわざわざ俺たちの前に現われたわけじゃないだろ。俺になんの用だ」 「貴様のために出てきたわけじゃない」 「それでもいい。さっさと話せ」  イスラがそう聞くと、初代イスラが面白くなさそうに腕を組んだ。  そして不機嫌なまま口を開く。 「……俺を蘇らせるように進言したのはデルバートだな」 「そうだ。一番最初にデルバートが蘇った。次にリースベットだ」 「ふんっ、結界を強化してレオノーラの復活を阻止するとでも言われたか?」  初代イスラはそう言うと、イスラを見つめて忠告する。 「デルバートを信用するな。あれの目的は別にある」 「なに?」  告げられた忠告にイスラは目を丸める。  ゼロスも同様の反応だ。

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