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第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~15

「信用するなって、でもデルバートの言う通り結界を強化したらレオノーラは止まったよ?」 「一時的なものだ。そもそも一度動き出したレオノーラを止めることはできない。初代時代の封印が解かれれば星は終焉に向かうのみ」 「じゃあ、初代勇者と初代幻想王を蘇らせても結局はなにも変わらないってことなの?」 「そういうことだ。いずれレオノーラの限界がくることは分かっていた。一度限界を迎えれば最後、星の終焉の始まりだ」  ゼロスはごくりっと息を飲む。  星の終焉。結局、終焉からは免れないというのだ。 「あと二日ってことだね……」 「そうだ。二日後、海底の祈り石が海面に到達する。それはレオノーラが姿を現わすということだ。だが同時に、杭が外れて星の終焉が始まる」  淡々と告げられた内容にゼロスの顔が強張っていく。  ゼロスが初代時代に転移したのは三歳だったが今でも覚えている。ブレイラによく似たレオノーラの姿を。そしてそのレオノーラが祈り石になって十万年間も星を守り続けてきたのだ。  だがそれを聞いてゼロスは余計に分からなくなる。デルバートを信じるなと忠告されたが、その意味が分からない。 「……それじゃあデルバートの目的はなんなの? 結局復活を止められないなら、いったいなんのために……」 「まだ分からないか。当代冥王ゼロス」  初代イスラが当代勇者と当代冥王を見据えた。そして。 「俺たちは死んでるんだぞ。俺たちは俺たちの時代ですべきことをし、そして死んだ。その初代時代の俺たちに蘇った目的があるとするなら、それはただの我欲のためだ」 「我欲……?」 「ああ、俺たちの我欲とは後悔だ」  初代イスラは我欲を後悔という。  それは想像もしていなかった答えだった。  ゼロスは驚きながらも聞き返す。 「いったいなんの……」 「さあな。俺が他の初代王が考えていることなんて知るわけがないだろ。……話はここまでだ。これ以上お前たちに話すことはない」  初代イスラはそう言うと、その体が薄くなっていく。  それに気づいたイスラは慌てて声をかける。 「おいちょっと待て。まだ話しは終わってないだろ!」 「俺の話しは終わった。こうしてお前たちのために語り掛けることはこれが最後だ」 「最後?」 「ああ、次に俺が姿を現わす時はレオノーラのため。レオノーラの剣となり盾となる。レオノーラの望みはすべて叶える。お前らと敵対することになったとしてもな。俺は最期の時、そう誓った」  初代イスラはそう言い残し、跡形もなく消えてしまった。  残されたイスラとゼロスは神妙な顔になる。 「我欲か……」  イスラはぽつりと呟いた。  初代イスラは初代四界の王の我欲を後悔といった。 「あの人たちの後悔ってなんだろ……」  ゼロスは腕を組んで考える。  初代四界の王は世界を四つに分かつことで星の危機を救ったのだ。それは四界大戦をも終結させて、四界の強靭な礎となったのである。そんな初代王の存在はどの世界でも別格と扱われているのだ。  そんな初代王たちが後悔していること……。 「兄上、分かる?」 「俺に分かるわけないだろ。そういうのは本人に聞け。だが……」  イスラはなにかを言いかけて、そして口を閉じた。  先ほどの初代イスラは十万年前とは明らかに変わっていた。  十万年前は自己中心的で生意気で傲慢な子どもだった。同じ年だったイスラから見ても面倒くさい子どもだと思ったものだ。しかしイスラにとって初めてできた対等の友だったのは間違いない。そしてそれは初代イスラも同じ思いだろう。  死の間際、レオノーラが沈んでいる大海原を見つめながらなにを思ったのか……。  イスラは考えて、考えるのをやめた。初代時代の後悔は初代王のものである。もしそれが現代に害をなすというなら、当代として排除すればいいだけの話しである。 「それもそうだよね」  ゼロスも納得したように頷いた。  でもふとゼロスはニヤニヤする。 「あの初代勇者の人ってさ、あんまり素直じゃないよね」 「なんだいきなり」 「だってさ、あの人が僕たちの前に出てきた理由って兄上の友だちだからでしょ?」  ゼロスが面白そうに言った。  自分が復活する時はレオノーラのためだとまで言い切ったのに、それでも姿を現わして忠告までしてくれたのだ。ぶっきら棒な物言いだったが、その内容は当代勇者イスラを案じるものだった。  イスラも面白そうに目を細める。 「本人の前で言うなよ? 面倒くさくなる」  絶対認めないだろうからなとイスラもニヤリと笑った。  素直でないところは十万年前から変わらないが、それでも変わった気がするのは勘違いじゃないだろう。 「アハハッ、わかった。あいつ素直じゃなさそうだもんね」 「お前みたいなのもどうかと思うぞ」 「どういう意味で言ってんの。ブレイラはゼロスはいい子ですねって言ってるからいいの」 「ブレイラは俺やクロードにも言ってるだろ」 「そうだけど、いいの! それで兄上、これからどうする? 冥界行く? 僕、初代幻想王のおじさんがどこにいるか分かんないけど」 「開き直るなよ……。だが一度魔界に戻る」 「そうだね。初代王たちの力を借りてもレオノーラが止まんないみたいだし。デルバートが本当にレオノーラの復活阻止に力を貸してくれてるのか疑問だし」 「ああ、行くぞ」  こうしてイスラとゼロスは魔界に戻るのだった。 ■■■■■■

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