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第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~16
コンコン。寝所の扉がノックされました。
「ブレイラ様、おはようございます」
「どうぞ、入ってください」
許可するとコレットが寝所に入ってきました。
でも窓辺のチェアにいた私を見て驚いたように目を丸めます。
「お休みになっていなかったんですか?」
「横になったんですが、なんだか眠れなくて……」
私は開いていた書物を閉じました。
そう、ハウストを見送ってから一睡も眠れなかったのです。
休むように言われていましたが落ち着いて眠ることなどできず、結局ベッドから出て朝まで書物を読んでいました。といっても、その書物の内容もあまり頭に入ってこなかったのだけど。
「朝の支度をお願いします」
「畏まりました。支度を」
コレットが命じると女官たちが寝所に入ってきます。
女官に衣装を着せてもらい、朝の支度を終えました。
「今日のローブもお似合いです。とても美しい御姿です」
「ありがとうございます。みなが良くしてくれるからです」
私はコレットと女官たちに笑いかけました。
コレットと女官も穏やかな笑みを返してくれて、今日も良い朝を迎えることができました。
このままいつもの日常が始まってくれるといいのですが、この世界の日常はがらりと変わってしまったのです。
レオノーラが目覚めるまであと一日。明日、四界がどうなっているか誰も分かりません。
「ブレイラ様、そろそろお時間です」
「分かりました……」
私は寝所をでて広間に向かいます。
精霊王フェルベオから広間に集まるように申し渡されていました。もちろん内容は昨日のことでしょう。
ふと一人の女官が「失礼いたします」と声をかけてきます。報告があるようです。
女官はコレットに伝えると、コレットが少し驚いた反応をする。すぐに私のところに報告にきてくれます。
「ブレイラ様、イスラ様とゼロス様がお戻りになったようです」
「あの二人が……。初代勇者と初代幻想王も蘇っているのですか?」
「そういうわけではないようです」
「そうですか……」
イスラとゼロスは初代勇者イスラと初代幻想王オルクヘルムを蘇らせに行ったのです。オルクヘルムはともかく初代イスラの墓標は見当をつけていたので、なにもせずに帰ってきたということは何かあったのかもしれません。
「イスラとゼロスは怪我などしていませんか?」
「はい、お二人ともどこにも怪我などは見られなかったようです。そういった報告もありません」
「そうですか。安心しました」
ほっと安堵の息をつきました。
二人が無事でいてくれるならそれで充分です。
「ブレイラ様、大丈夫ですか?」
コレットが気遣うように声をかけてくれました。
私は小さく笑いかけるけれど、コレットは首を横に振ります。誤魔化されてくれないのですね。
「ブレイラ様、私はブレイラ様が魔王様と婚約された時からお側におります。どうか私にはお気持ちのままお話しください」
「コレット……。ありがとうございます。あなたには隠し事ができませんね」
私は苦笑しました
そして広間に向かって歩きながらお話しします。
「……じつは、まだなにも心に決めることができていないんです。実感がないというかなんというか……」
私は立ち止まると、廊下の窓から外を見つめました。
「ここから見える空はいつもの空なんです。どこまでも続く青い空、流れる雲。それは十万年前から現在に至るまで変わらない不変のものです。地上の人々の混乱こそが夢なのではないかと思うほど」
私はそう言うと肩を竦めます。
「いけませんね、そんなこと言ってはいけないのに……」
これは弱音というか、現実逃避というか……。これからも日常が続けばいいという願望です。
そう、願望が見せる夢のような幻。現実ではありません。
「ごめんなさい。困らせましたね」
「いいえ、お気持ちを話してくださりありがとうございます。ブレイラ様、私は信じたいのです。精霊王様が提示された方法以外にも星を救う方法があるんじゃないかと。ですから、どうか」
「それはあなたの気持ちですか?」
「恐れながら」
コレットは畏まりながらもきっぱり答えてくれました。
やさしいですね。コレットの言葉は私のためのもの。
「ふふふ、ありがとうございます。あなた方もありがとうございます」
私はコレットと女官たちに礼を言いました。
コレットにも女官たちにも故郷があって、それぞれに大切な人がいるのです。でも今も私の側を離れずにいてくれていました。ここにいる女官以外にも北離宮には多くが城に残っているのです。感謝せねばなりません。
「行きましょう」
私はそう言うとまた歩きだしました。
少しして広間に到着します。侍従が両扉を開けると、広間にはすでにハウスト、イスラ、ゼロス、ほかにも初代魔王デルバートと初代精霊王リースベットがいました。
少し離れた場所にはクロードの姿もありますね。
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