107 / 111

第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~17

「お待たせいたしました」  深々とお辞儀しました。  ハウストが私のところに来てくれます。手を取って指先に口付けてくれました。 「おはよう、ブレイラ。よく眠れたか? ……と言いたいが、愚門だったか」 「あなたこそ」  私は苦笑して首を横に振りました。  この広間にぐっすり眠れた者などいないでしょう。  次にイスラとゼロスが来てくれました。 「二人ともお帰りなさい。魔界に戻っていたんですね。いつ戻ってきたんですか?」 「ただいま。今朝方に戻った。あとで報告する」  イスラはそう言うと私の手を取りました。  イスラの次はゼロスです。ゼロスも私の手を取って挨拶してくれます。 「ただいま、ブレイラ。心配かけちゃったよね」 「あなたとイスラを心配しない日はありませんよ。いつもあなた方を思っています」  私は帰ってきてくれたイスラとゼロスに笑いかけました。  二人には戻ってきた事情があるようですが、今から大切な話があるのでよかったです。二人にもいてほしかったので。  私は最後にクロードを見ました。  次代の魔王なので広間に呼ばれたクロードですが、父上に叱られたことを少し引きずったままのようですね。顔が少し強張っています。  しかも広間にはそうそうたる顔ぶれが揃っているので気圧されているのです。目立たないように縮こまっているよう。 「クロード、こちらへ」 「ブレイラ!」  私が呼ぶとクロードがパアッと顔を輝かせました。  私のもとに駆けてきて、足にぎゅっと抱きついてきます。  安心した顔になったクロードに笑いかけます。 「昨夜はよく眠れましたか?」 「はい、ねました」 「よろしい。どんな時もよく食べて、よく眠ること。そしてたくさん学ぶのです。そうしていれば大丈夫です」 「はい!」  クロードは大きな声で返事をしてくれました。  嬉しそうに私と手をつなぎます。  私がくるまで不安そうな顔をしていましたが、いつものクロードに戻ってくれました。  いい子いい子と頭を撫でると、私は改めて精霊王フェルベオを見ました。  明日、レオノーラが目覚めます。  それは星の終焉の始まり。  今、魔界の城には私たちの他にも魔界からは四大公爵たちとその夫人たち、精霊界や人間界からも世界の中枢を担う者たちが集まっていました。  明日、すべての命運が決するのです。 「精霊王様、並びに初代王様方、お待たせしました」 「母君、おはようございます。いつもと変わらぬ朝がきました」 「そうですね。これからもずっとこんな朝であればいいと思います」 「同感です」  挨拶の言葉を交わすとフェルベオは広間を見回しました。 「さて諸君、いよいよレオノーラ復活まで後一日になった。明日、四界がどうなるのか誰も分からない。祈り石になったレオノーラがどんな姿で復活してくるかもだ。我々にできることは予想される天変地異レベルの災厄に対応することだけ。すべてが後手にまわることになるだろう」  フェルベオはそこで言葉を切ると、怖いほど真剣な顔で口を開く。 「この災厄によって予測できる死亡者数は四界人口のおよそ半分」 「は、半分っ……!」  衝撃に息を飲みました。  なんらかの被害は予想していましたが、私が想像するよりはるかに甚大な被害が予測されていたのです。 「ここ数年起きていた原因不明の災厄の原因はレオノーラ復活に起因するものだということが分かった。ならばレオノーラが復活すれば今まで以上の災厄が起こるだろう。地殻変動レベルで地形が変わり、山脈から流れる大河は灼熱のマグマとなり、空には分厚い雲が広がって地上に光は届かない。この時点でいくつかの国も街も壊滅する。それによる死者数が半分。そこからさらに一日が経過するごとに激変していく。そしてレオノーラ復活が星の終焉となるなら、最後にはすべてが死に絶えるだろう。動物も植物さえも消滅し、死の星となる」  淡々と語られた内容に広間は静まり返りました。  それは予測に過ぎませんが、限りなく現実になると思われているのです。 「我々が行なう対応策など無意味に近いものだ。各世界で人々が避難しているが、それは死に場所を移っただけともいえるな」 「そんなこと、そんなこと言わないでくださいっ……」  思わず声を上げました。  人々は生き延びるために苦しいなかで避難してきたのです。今だって避難民の列は途切れていません。生きるために必死に逃げることを無意味なものだと言いたくありません。

ともだちにシェアしよう!