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第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~18
「母君、申し訳ない。口にするべきことではなかった」
「……いいえ、私こそ申し訳ありません。あまりの災厄に驚いてしまって」
私の視線が落ちました。
フェルベオは申し訳なさそうに言いましたが否定はしていません。それは起こるべくして起こる明日の現実だということです。
絶望的な現実に広間が張り詰めていく。
私はふと初代魔王デルバートと初代精霊王リースベットを見ました。蘇った二人は淡々とした面差しで現在を見つめています。あの初代時代、初代四界の王にも今と同じ選択が迫られていたのです。
そんな中、フェルベオが真剣な面差しで口を開く。
「一つだけ、星の終焉を食い止める方法がある。今まで通りの平穏な四界が続く方法だ」
告げられた言葉にハウストとイスラとゼロスが驚いた顔になりました。
予想していなかったことなのです。
「どういう意味だ?」
ハウストが訝しげな顔でフェルベオを見ました。
四界の王ですら不可能なことなのです。それが可能だというフェルベオに動揺を隠し切れないのです。
……ああ、ハウスト。ハウスト、ハウスト、ハウスト、ハウスト。祈るような気持ちでその時を待ちました。そして。
「レオノーラの役目を誰かが引き継ぐという方法だ」
「引き継ぐだと?」
「そうだ。誰かと言ってもそれは魔力無しの人間に限定することになるが」
厳しい口調でフェルベオが言いました。
祈り石の力を発動できるのは魔力無しの人間だけ。ならば魔力無しの人間が新たな祈り石となってレオノーラの役目を引き継ぐ、それは現実味のある打開方法でした。
でもハウストの顔がみるみる強張っていく。
いいえハウストだけではありません。イスラとゼロスもです。
「待て、その方法は認められない!」
ハウストが焦った口調で言いました。
そんな彼にフェルベオが首を横に振ります。
「魔王殿、認められないというが理由はなにかな。代案はあるのか」
「貴様っ……」
「初代王の力を借りて結界を強化しても僅かな時間稼ぎにしかならない。ならば、誰かがレオノーラのあとを引き継ぐしかない。そこで僕は提案したい」
「黙れ!!」
ハウストが遮りました。
そして足元から闘気が立ち昇り、フェルベオを睨み据えます。
「それ以上続けてみろ。殺すぞ」
ハウストが低い声で言い放ちました。
いいえハウストだけではありません。イスラとゼロスも無言のままフェルベオを睨み据えます。
殺気を帯びた三人に緊張感が高まって、手をつないでいるクロードが「ちちうえとにーさまたち、どうしたんですか?」と不安そうに私の手をぎゅっと握りしめました。
そんな私とクロードの前で三人がフェルベオと対峙します。
「さすがに僕以外の四界の王を相手にするのは分が悪い。今ここで僕を殺しても何も変わらないと思うが?」
「今ここで貴様を黙らせることに意味がある」
「なるほど。僕の提案に察しがついたわけか。さすが魔王殿」
フェルベオはそう言いながらも厳しい面差しで続けます。
「だが言わせてもらう。これは四界の王として必要な提案だ。それは魔王殿、勇者殿、冥王殿も分かっているはずだ」
「そうだな、理解しないとは言わん。だが断言させることもしない」
ハウストが大剣を出現させました。
凄まじい闘気が爆発的に膨れ上がり、その異変に気付いた側近たちが広間に駆けこんできます。
魔界の宰相フェリクトール、四大公爵と四大公爵夫人、他にも人間界や精霊界の重鎮たち。
「いったいどういうことです!?」
「何ごとですか!?」
「魔王様! 精霊王様!?」
「おい、何してんだ! っ、どうして魔王と精霊王がやばいことになってんだ!」
その中には精霊王の護衛長官ジェノキスもいました。
ジェノキスはフェルベオを背後に守るように立ちます。
でもフェルベオは落ち着いた様子でジェノキスを下がらせました。
「騒がせて悪かった。下がってろ」
「なに言ってんだ! 本気で殺されるぞ?」
ジェノキスがハウスト、イスラ、ゼロスを見ました。
いくら精霊王といえど三人の四界の王を相手に戦うのは無謀です。
「大丈夫だ。これが平時であればこの時点で現代の四界大戦に突入するだろうが、今はそんな時じゃない。そんな余裕すらない。四界大戦など足元にも及ばない災厄が迫っている時だからな。魔王殿もそれは承知のはず。そして僕の提示する選択肢が決して無視してはならないものだということも。だから僕は四界の王の一人、当代精霊王として提案させてもらう」
フェルベオがハウストとイスラとゼロスを見据えました。
一触即発の空気が流れます。今にも剣と剣、力と力が衝突してしまいそう。それは私が見たくない光景でした。だから。
「――――フェルベオ様、お待ちください」
私が声を上げました。
それにハウストとイスラとゼロスが強張った顔で私を見る。でも今はフェルベオに穏やかな口調で話しかけます。
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