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第七章・レオノーラの目覚め ~悠久を越えた誓い~21

「私に言いたいことがあるのでしょう。そんな顔をしていますね」 「ブレイラ、俺は納得できない! ブレイラが引き継ぐというなら、俺はそれを全力で阻止する! 自分の持てるすべての力を使ってでも必ず阻止する!」 「僕も嫌だ! ブレイラが引き継ぐのは絶対に嫌だ!!」  声を荒げたイスラとゼロス。  クロードは泣きそうな顔で唇を噛みしめています。 「聞き分けがありませんよ」 「そんなものはいらない!」  イスラが強い口調で言い放ちました。  拒絶するイスラとゼロスとクロードを見据えます。 「イスラ、ゼロス、クロード、よく聞きなさい。これは私の決断です」 「いくらブレイラの決断でも俺は認められない!」  イスラの強い瞳。  なにものにも屈しない勇者の瞳。  かつて何度も私を救ってくれた瞳です。  この瞳を見ると、不可能も可能になるんじゃないかと夢見てしまう。  でも夢は夢でしかないのです。  夢からは醒めなければなりません。  私は三人の息子たちにため息をついてみせました。 「私を愛しているというなら、私の決断を尊重しなさい」 「っ、ブレイラ……」  イスラとゼロスが悲壮な顔になる。  それほどに私の言葉は酷いものなのです。  そう、三人の息子たちの激情を封じるためのものなのですから。  でも今、引くことはできません。たとえ酷い親だと罵られても。  私はさらに続けようと口を開きましたが。 「――――ブレイラ、それ以上はやめろ。三人には酷なものだ」  ハウストが遮りました。  そして私を見つめたまま続けます。 「そしてお前自身も傷つける」 「なんのことでしょう」  ハウストを見つめて言い返しました。  静かに見つめあう。互いの心の内を見つめるように。  でもすぐにハウストが少し呆れた顔になります。 「お前は相変わらず面倒くさい。出会った時から」  ハウストはそう言うとフェルベオに向き直りました。底冷えするような瞳でフェルベオを見据えます。 「ブレイラになにを吹き込んだ」 「魔王殿、人聞きの悪い言い方はやめてくれ。母君が決断されたことだ」 「ああ、そうだな。ブレイラならそうする」  ハウストはそう言うと、今度は広間に集まっている者たちの顔を見回しました。  今、広間には沈黙が落ちています。どの顔も困惑と緊張に強張っています。  ハウストはまた私を見据えました。 「お前の言いたいことは分かった。お前は魔界の王妃、王妃の提案は尊重しよう」  淡々と紡がれた言葉に、「ありがとうございます」とお辞儀しました。  ハウストが今まで私の言葉を無碍にしたことはありません。叱られることもあるけれど、彼は私の願いを叶えようとしてくれるのです。  でも今、私を見つめるハウストの瞳はいつもとは違った色を帯びていました。 「だが、すべての決定権は俺にある。俺はお前がレオノーラを引き継ぐことを認めない」 「それは命令ですか?」 「そうだ、命令だ」  ハウストの言葉に広間に集まっていた士官たちがざわつきます。  そのざわつきは困惑と動揺。そして僅かに滲んだ……落胆。  そう、ここにいる者たちは私の提案に希望を見たのです。  その希望に期待し、切実に縋りたいと思ったのです。  当然ですよね。今、四界は終焉の危機を前にしています。  それは四界の王ですら回避できない危機。その危機を回避する方法があるなら、それに縋りたいと思うのは当然のこと。たとえそれが魔王の意に反することであったとしても。  ハウストは私を見据えたまま命令を続けます。 「王妃の軟禁を命じる。誰との接見も禁じる。たとえ精霊王であったとしてもだ。連れていけ」  ハウストの命令に兵士が私の両側に立ちました。  士官が丁寧ながらも有無を言わせぬ様子で私を促します。 「王妃様、こちらへ」 「……。分かりました」  私は静かに頷いて兵士に連れられます。  でも広間を出る時、そこにいる人たちの顔を見ました。  ハウスト、イスラ、ゼロス、クロード、あなた方は気付いていますか?  あなた方の周りにいる人たちが今どんな顔をしているか。  平静を装っているけれど、みな、とても怯えた瞳をしているのですよ。  終焉をもたらす天変地異を恐れているのですよ。  ハウストが私を愛しているように、ここにいる人たちも誰かを愛しているのです。  ハウストが私を守りたいと思ってくれているように、ここにいる人たちも誰かを守りたいのです。  私は最後にハウストを見つめました。  この瞳に焼きつけるようにハウストの姿を。 「失礼いたしました」  私は深々とお辞儀すると広間を後にしたのでした。

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