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第11話

 物質的に満ちていった結果ではなく、俺は会話してそばにいてくれるユイフェルのことが好きになってしまい、ほぼ毎日、畑仕事の最中まで、ユイフェルについて考えてしまうようになった。  それをある日、ユイフェルに伝えたら、嬉しそうに笑顔で言われた。 『それはね、恋って言うんだよ』  俺は初めて、恋という概念を、実感を持って知った。幼少時に読んだ絵本の中の知識が、やっと理解できたと言える。 『そういう時はね、好きな相手には、好きだときちんと伝えるんだよ』 『俺はユイフェルが好きだ』 『そう。僕も、マイスのことが大好きになってしまったよ』  ギュウギュウと俺を抱きしめて、気恥ずかしそうにユイフェルが笑ったのは、昨日のことである。今日もユイフェルは来るだろうか? お互いに好きだと話した今、俺達は多分、恋人という関係になったのだと思う。それもあって、ユイフェルのことが待ち遠しくて仕方がない。また今日も、ユイフェルが来たら、好きだと伝えたい。  ――だが。  その日、ユイフェルは俺の家に来なかった。ずっと待っていたら、朝になってしまい、俺は俯いた。そしてまた、その翌日も、そうして三日目となる本日も、ユイフェルは俺の家に来ない。恋だと教えてくれた日を境に、一度も来ない。 「なにかあったのかな……」  不安になって、ぽつりと俺は呟いた。怪我や病気をしたのかもしれない。  食料庫にはまだまだたっぷり食材があるけれど、そちらの心配は浮かんでこない。別にそれらは元の通りに無くなっても構わない。だけど、ユイフェルに会えないのは、俺にとってはもう耐えられない。それだけは、嫌だ。  いてもたってもいられなくなって、俺は四日目の朝、恐る恐る村の中央へと向かった。人目を避けるようにしながら、ユイフェルがいるはずの、教会を目指す。そして窓を見つけて、静かに中を覗いた。ミサの最中のようで、耳を澄ませば、聖典を読む――ユイフェルの声が聞こえてきた。優しげな声音は、俺の大好きなものと同じだ。厳かな気配が漂っている。俺には、入ることが許されない場所だ。  胸が痛くなって、俺は踵を返して走って帰った。  そうして家に着くなり、俺は呟いた。 「俺は、何か嫌われるようなこと、しちゃったのかな……」

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