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第2話

 週明け、槇原はフォーク犯罪捜査班のオフィスへと向かった。周囲と朝の挨拶を交わしてから、自分のデスクにつく。午後には、捜査会議の予定が入っている。午前中には、その資料作りをしようと思っていた。  槇原棗は、フォークを追いかけるフォークである。犯罪者と刑事ではあるが、基本的に殺人犯罪者を追う己もまた、予備殺人鬼であるという自覚はある。幸いこの班の人間達は理解のあるものばかりだが、結果を残さなければ、警察機関で生き残るのは並大抵の努力では困難だった。そう思って働けば働く内に、周囲の評価が変わっていき、今では普通のエリート扱いであるし、検挙数から実力派だとも呼ばれている。  現在追いかけている事件は、フォークの連続強姦殺人犯である。現場には、必ずフォークで突き刺した苺が残されている。だからフォークだと分かるんではなく、被害者が全てケーキだからという理由が大きい。  外見からでは見分けがつかず、本人さえ自覚がないことも多いケーキを、連続で害せるのなど、フォークのみだ。ただ今回は、被害者もケーキだと自覚がある者が多数だった。それも――景紀大で行われた観察研究の被験者であるケーキばかりだった。七海のフォークに関する研究室とは別にある、ケーキの特性を観察していた研究室で行われた実験への参加者が被害者だった。被験者であることは被験者本人も口外しないという約束の下行われた実験だったので、犯人は大学関係者である可能性が高いと判断している。  だから――七海にも漏らすわけには行かない。  いくら七海がケーキであるからと言っても、捜査線上に大学が浮上している以上、言うわけには行かない。  槇原は、七海を信頼している。  だが、だからこそ、巻き込むようなことはなるべく避けたい。当初こそ、捜査協力者として七海を警察機関に紹介したこともあるが、今ではそれを悔やんでいる。危険な目に遭わせるかもしれないのが怖くて、それとなく周囲に要請されても、濁し断るようになった。 「……」  研究一筋で、基本無表情で何を考えているか分からず、自分の体をあっさりと自分に提供するように無頓着で食事にもあまりこだわらない七海のことが、槇原は気になってしまう。研究以外には無頓着な七海が、儚く危なく見える。心配が先行し……いつしか、気づくと七海のことばかり考えているようになっていった。  今では七海が開発した衝動抑制剤もあり、本当ならば、とっくに七海を喰べなくてもいい状態である。それまではそばにいると食欲をそそられて、既存の抑制剤では我慢をするのも大変だったが、今は七海と二人で過ごしていても、手を出さずにいる事もできる。できるが――そうはせず、用事も無いのに頻繁に呼び出して、その体を味わい体を繋いでしまうのは……七海のことが、好きだからだ。  七海にこの気持ちが露見したら、距離を置かれるかもしれない。  槇原は、それが嫌だ。  だが、研究がある内は、七海は己に抱かれてくれるだろうと思いつつ、断られると不安になる。いつ自分が用なしになるか、これはあまり考えたくない事柄だ。 「七海先輩、午後の会議の資料なんですが、俺の方、詰まっちゃってて……」  そこへ後輩の警察官が声をかけてきた。  振り返り、槇原は微笑する。真面目一徹で捜査に熱心で優秀な人柄だと考えられている槇原は、周囲からの信頼も厚い。だが実際には、最近では煩悩まみれだった。

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