6 / 16
第6話
「ああ、本当に美味い。魔族とは全然違う。人間のケーキの味は、なによりも美味だと効いてはいたが、事実だったらしい。オリビア、お前は凄く美味いよ。まるで生クリームをふんだんに使ったホールケーキのように、俺の口の中で、お前の味は甘く蕩けた」
うっとりとするように、ラークが述べた。
「ね、ねぇ? 僕って、ケーキってことだよね?」
「そうだ」
「つまり、ラークは僕とキスすると、甘い味を感じるの?」
「他には精液でも、唾液と同じように甘さを感じる。俺達は、恋人同士になっただろう? 勿論、オリビアは俺の下で、喘いでくれるな? 俺はオリビアを抱きたい」
直接的なその言葉に、僕は真っ赤になった。コクコクと頷くのが精一杯だった。
「俺は店が終わるまで、ここで待つ。仕事が終わったら、来てくれるな?」
「えっ……う、うん」
これは、夜のお誘いだ。僕は真っ赤なままで、今度は大きく頷いた。
すると子供をあやすように、ラークが僕の茶色い髪を撫でた。
「待っているからな」
その言葉を聞いてから、僕は店に戻った。
だが仕事中は、ずっと気がそぞろだった。時が経つのが遅いような、早いような、不思議な感覚に襲われる。それからは、店に客が多く来る時間となったから、僕の仕事は多忙を極めた。けれどラークの存在が、頭から消えて掠れることは一度も無かった。
お店が終わってから、僕は急いで裏庭へと向かった。四阿のベンチには、ラークが言葉の通り、座って僕を待っていたのが分かる。
「遅くなった、ごめん」
「いや、いい。来てくれてありがとう」
立ち上がったラークは、僕を抱きすくめた。僕は背丈が低いから、ラークの胸板に額が当たる形になった。力強い両腕が、ギュッと僕に回っている。ラークの体温に、僕の心拍数はすぐに煩くなり、ドキドキしっぱなしになってしまった。
「俺の家についてきてくれるな?」
「うん」
「行こう」
こうして僕達は夜道を歩き始めた。
ラークの家は、郊外の一軒家だった。騎士団の寮ではなかった。ラークは実力があるといわれているから、一人暮らしを許されているのだと教えてもらった。実際、実力は確かなはずだと、僕は宿屋の店で聞いた噂をいくつも思い出した。皆が、ラークを賞賛していた。
ともだちにシェアしよう!