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第6話

「ああ、本当に美味い。魔族とは全然違う。人間のケーキの味は、なによりも美味だと効いてはいたが、事実だったらしい。オリビア、お前は凄く美味いよ。まるで生クリームをふんだんに使ったホールケーキのように、俺の口の中で、お前の味は甘く蕩けた」  うっとりとするように、ラークが述べた。 「ね、ねぇ? 僕って、ケーキってことだよね?」 「そうだ」 「つまり、ラークは僕とキスすると、甘い味を感じるの?」 「他には精液でも、唾液と同じように甘さを感じる。俺達は、恋人同士になっただろう? 勿論、オリビアは俺の下で、喘いでくれるな? 俺はオリビアを抱きたい」  直接的なその言葉に、僕は真っ赤になった。コクコクと頷くのが精一杯だった。 「俺は店が終わるまで、ここで待つ。仕事が終わったら、来てくれるな?」 「えっ……う、うん」  これは、夜のお誘いだ。僕は真っ赤なままで、今度は大きく頷いた。  すると子供をあやすように、ラークが僕の茶色い髪を撫でた。 「待っているからな」  その言葉を聞いてから、僕は店に戻った。  だが仕事中は、ずっと気がそぞろだった。時が経つのが遅いような、早いような、不思議な感覚に襲われる。それからは、店に客が多く来る時間となったから、僕の仕事は多忙を極めた。けれどラークの存在が、頭から消えて掠れることは一度も無かった。  お店が終わってから、僕は急いで裏庭へと向かった。四阿のベンチには、ラークが言葉の通り、座って僕を待っていたのが分かる。 「遅くなった、ごめん」 「いや、いい。来てくれてありがとう」  立ち上がったラークは、僕を抱きすくめた。僕は背丈が低いから、ラークの胸板に額が当たる形になった。力強い両腕が、ギュッと僕に回っている。ラークの体温に、僕の心拍数はすぐに煩くなり、ドキドキしっぱなしになってしまった。 「俺の家についてきてくれるな?」 「うん」 「行こう」  こうして僕達は夜道を歩き始めた。  ラークの家は、郊外の一軒家だった。騎士団の寮ではなかった。ラークは実力があるといわれているから、一人暮らしを許されているのだと教えてもらった。実際、実力は確かなはずだと、僕は宿屋の店で聞いた噂をいくつも思い出した。皆が、ラークを賞賛していた。

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