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第5話

目が覚めると母屋の寝所だった。外が明るい、どうやら昼過ぎまで寝ていたらしい。 体を起こすと、腹部に違和感がある。 「はぁ」 昨晩、意識があったのはどれくらいだっただろうか。 要の火照った体と、射貫くような眼光を思い出すと、鳥肌がたった。抱かれる幸せと計り知れない深い愛への恐怖を感じる。 腹をさする。この感じだと、俺が意識を失った後も、やめられなかったのだろう。 梅に言って、軽めの昼食を済まし、俺はだるい体で邸宅の散歩に出た。 外を歩くと気分がいい。夏青国は一年中暖かく、南に海があり、魚介がよく取れる国とのことだった。 人の世で言う初夏の風が気持ちいい。もう少し経つともっと暑くなると梅は言っていたが、その暑さとやらも俺には未知だ。 母屋から庭を見渡せる廊下をゆっくり歩いていくと、小さな橋があった。橋の下には細い川が流れている。見下ろすと、自分の影が映る。今日の衣装は薄紫を基調にした和装だ。綺麗な布地で繕われた衣がゆらゆらと揺れる。下は袴のような形の服で、生地が薄く歩きやすい。これはこれで気に入っている。 性行為の後は、体が鬼になると言っていたが、今のところなんの変化も感じられなかった。 橋を渡ると、その先の建物に要の姿があった。 窓というものがないので、中が丸見えだ。要のほかには二人しかいない。 仕事中だろうか、少し見学する分には構わないだろうか。ゆっくり近づいていくと鬼の一人がこちらを見て、驚いたようだった。 俺に気づいた要が慌てたように建物からこちらへやってくる。 「蒼。体は平気ですか?」 「うん。ちょっとだるいけど・・・。ここで働いているのか?」 「はい。前までは役場まで通っていたんですが、蒼がいるのでここに執務室を設けたんです」 「俺なら別に、心配いらないけど」 「・・・・その発言はまったく信用できないですね」 「なんでだよ。んっ・・・・おい、人前だぞ」 抱き寄せて口づけしてくる要を慌てて引きはがす。 「この世界では、人の魂を持っているってだけで国宝みたいなものなんですよ。身辺には気を付けてくださいね。蒼は目を離すとすぐにうろうろし始めるから」 「すいませんでしたね・・・」 「その子が要の姫?」 話しかけてきたのは先ほど要と一緒に仕事をしていた鬼だ。金色の髪に、たくましい体をしている。要よりも背が高い。にっこりと俺に微笑んでくる表情から人懐こさを感じる。 「初めまして。僕は右近(うこん)って言います。噂には聞いてたけど、姫ってのは本当に美しいんだね。全然降りてこないから、どうしようかと思ってたよ」 「ど・・・どうも」 要が俺の体に手を回す。どうやら他の鬼が俺に近づくのを警戒しているようだ。 「お初にお目にかかります。俺は左京(さきょう)といいます」 左京という鬼の方は、色白で黒い髪をしている。長く伸ばされた髪を一つに結んでいて、人の世でいうイケメン剣士という感じだ。こちらは値踏みするような視線を飛ばしてくる。感じが良いとはいいがたい。身長は要くらいだろうか。 二人とも角も牙もなく、見た目は人間に見える。才のある鬼というやつだろう。 「えっと・・・蒼といいます」 「うろうろされるのは関心いたしせんな。まだ披露目の儀式も行っていないのですから。姫として自覚を持つべきでしょう」 披露目の儀式ってなんだ?だいたい、姫って呼ばれることにもこっちは違和感たっぷりなんだ。姫の自覚なんてあるわけないだろう。なんで初対面のやつに怒られないといけないんだ。 「自覚を持つのは左京の方だろう。俺の姫に失礼な態度は許さない。姫が嫌がってこの館を去ることになったら、俺はお前を切るよ」 要から殺気が漂う。左京と呼ばれた鬼が右手を自身の腰に挿している刀の柄に添える。 しまった。俺より俺を大切にしているやつがすぐそばにいるのを忘れていた。俺が機嫌を損ねている場合ではない。 「ちょっと、二人とも喧嘩はやめてよ」 右近が慌てて間に入る。 「要、俺は構わないから。怒るなよ」 俺が要の腕を取って自分に引き寄せると、要がふっと息を吐いた。 はぁ、爆弾を抱えている気分だ。鬼の世界、銃はなさそうだけど、刀があるみたいだし、めんどくさいかもしれない。 「仕事の邪魔をしてすいません。俺、もう帰るから、要、仕事に戻って」 「蒼、暇をしているなら宝物殿に行ってみください。蒼のために書物を集めておいたんです。字は読めると思うので」 「おお、気がきくな。わかった。行ってみる」 要達と別れて、俺はさっそく宝物殿へ向かった。社がある山に続く門の手前に建物が別建てであり、その一つが宝物殿らしかった。中に入ると、様々な物が雑多に置かれている。本はどこにあるのだろうと思っていると、入ってすぐ左側に個室があって、そこが書庫となっていた。 「うわ、全部手書きの本だ」 印刷という技術はないのだろう。古文書みたいな本が並んでいる。 表紙を眺めて、どの本を読もうかと目次をあさっていく。要はどうやら、この世界の基本的なことがらが書かれた本を集めたらしい。 「身体読解か・・・・」 メス型、オス型、という文字を見つける。気になっていたことだ。 ふむふむ。鬼はもともとオス型のみで生まれて、性行為の時に、精を受ける側がメス型に代わる。メス型は性行為の際、肛門から体液がでるようになり、受胎することが可能になる。 「受胎・・・・」 ん?子ども産めるってこと? やばい、昨日あれだけ中に出されたけど、俺、妊娠するんだろうか? 冷汗が出る。自分が妊娠するなんて考えたこともない。 「お産の儀式」というページをみつけて慌てて読む。 えっと、お産の儀式は産土の地でのみすることができる。産土の地で性行為をし、受胎した気が神木に宿ると、その神木から新しい鬼が生まれる。 んー、ってことは、普通にセックスしても妊娠しないし、そもそも鬼は木から生まれるってことか? 謎は深まるばかりだな・・・・まぁ、とりあえず、今すぐ妊娠はなさそうだ。 宝物庫の近くに、ちょうど本を読むのに良さそうな東屋があったのを思い出す。 興味がある本を数冊もって、宝物庫を後にした。 🔷 「蒼?ここでしたか」 すっかり本に埋没していたらしい。名を呼ばれて顔をあげると、夕焼けの空が広がっていた。 両手を上にあげて、縮こまった体をぐっと伸ばす。 「ほんとに鬼の世界なんだなぁ」 「本が役に立ちましたか?」 「うん。かなり。助かる」 「夕餉の前に風呂に入ってさっぱりしましょう」 「ん」 本を戻して要についていく。 風呂は敷地の西側にある。母屋から渡り廊下でつながっているのだが、結構奥まで歩かなければならない。その変わり天然の温泉だ。毎日露天風呂に入れるのは最高だ。 「蒼、こっち来て」 「なんだよ」 強引に引き寄せられて膝の上に乗せられる。 風呂から少し高くなっている岩の上に要が座っているので、お湯につかっているのはひざ下だけになる。 「これじゃ、風呂に入ってるって言えないだろ」 「ちょっと、検証したいことがあって」 「ん?おい・・・どこ触って・・・ちょ・・・やっ・・・・」 両手で左右の乳首をもてあそばれる。 首筋にちゅっと何度も口づけされ、耳を甘噛みされる。 「何して・・・・っん・・・」 少し大きくなった俺のアレをにぎり、ゆっくりと要が動かし始める。 「社ではなく、ここでも、射精すると霧みたいになるのかやってみたいんです」 「やってみたいって・・・っ・・・はっ・・・あぁ・・・・」 「こっちも触ってあげないと、蒼はいけませんよね」 「はっ・・・・あ・・・・んん」 指が入ると、体が反応して声が漏れる。前も後ろも刺激されて、俺のものが大きく膨れ上がる。 要の膝が俺の膝の内側に入り、ぐいっと足を広げられると、恥ずかしさで体が火照った。 「蒼は、恥ずかしいと反応しますよね」 「う・・うるさい・・・あぁん」 「ほら、いって。俺に見せてください」 「うっ・・・・あぁ!」 ビュっと液が吹きあがるものの、空中でシュっと霧に変わる。例のごとくキラキラとした残影が残る。 「あは♡」 「なんで嬉しそうなんだよ?こんな卑猥なファンタジー見て喜ぶなよ」 「だって、俺の液は蒼の中に出せばいいし、蒼の液が消えて無くなるなら、服が汚れないんでどこでもできるなと思って・・・」 「お・・・おまえ・・・何考えてるんだよ・・・・この変態!」 うふふ、と喜ぶ要を見てゾクっと悪寒が走る。 「じゃあ次は、俺のを中に出した後でも、また霧になるのか検証しましょう」 「ちょ・・・やめろ・・・俺で実験するな!」 「俺、愛のマッドサイエンティストなんで」 「それ、懐かしいな、ってやめろ・・・・ちょっ・・・っん・・・ああん」 怖い・・・何を考えているかわからない、この変態が怖い。

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