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第10話
「雪音殿に迷惑をかけないでいただきたい」
山のような反物を見て、山へ脱走しようとした俺に、左京がピシャリと苦言を呈してきた。
はぁ・・・逃げられないか。
諦めて梅が運んでくる反物を見る。
「蒼、また昼にきますね。がんばって」
涼しい顔でオス型陣は執務室へ移動していった。
「はぁ・・・・」
「そんなに嫌ですか?蒼様、みてくだせぇ、すんごく綺麗な布ですよ」
「俺は興味ない。雪音が選んでくれよ」
「しようのない子だねぇ。これからも衣合わせは度々あるし、一つずつ説明してあげるから、覚えてね」
「うれしいですだ!あたすも困ってましただよ。家のもんにも小言を言われる始末で・・・」
こうして雪音による、長い長い衣合わせレッスンが始まったのだった・・・
🔷
西に位置する秋紫国 が質のよい織物を特産にしているらしい。
そのほかにも、老舗の店の名前、得意な織の技法に染の技法と、ひとえに布といっても込み入ったいろいろが詰まっている。
卸問屋が試しの品として寄越してきた反物はどれも質のよいもので、確かに手触りも肌に良い物が多いし、色も綺麗だ。
「で、色はどんな色が好みなんだい?」
「無いよ。あーでも、要は俺に紫色を着せたいのかも。あいつ、俺のこと藤の精みたいだって言うから」
前世でやった結婚式を思い出す。植物園でやった身内だけの結婚式だったが、衣装は豪華だった。藤の精をイメージしたドレスを京音大 の安部教授がデザインしてくれた。懐かしい。結婚式に来てくれて、俺はそこで初めて安部教授と対面したのだった。
「なるほど・・・結婚式だとやっぱり京染めかな。藤の精のイメージなら、藤娘もいいかもねぇ」
えーと、京染は染めの技法が一流で、豪華な品が多いから儀式向け。藤娘は絞りの技法が一流で、名前通り藤色を得意としている。さっき雪音から教わった知識を反芻する。
「どれ、少し合わせてみようか」
雪音が反物を俺の肩から腰へ斜めにかけていく。
おぉ、なんか着ているみたいに見える。
「蒼様、なんと美しいことで・・・」
お陽が見ほれたのかボーっとしている。
「うん、いいね、じゃ、次はこっちね」
紫だけでなんでこんなに種類があるんだ!しかも、披露目の儀式には最低でも反物三つを組み合わせて衣装を作るのがマナーらしい。
次から次へと反物を肩から下げられる、要がどれが好きそうか、どの組み合わせが好きそうか・・・
いいかげん目が回る・・・・
「もう雪音が決めていいよ・・・・」
「無責任だねぇ、自分の式だっていうのに・・・・お、ちょうどよい所に、蒼、来ましたよ。思い人が」
振り返ると、午前の政務を終えた要、左京、右近が座敷へ入ってくるところだった。
「蒼、決まりそうですか?」
「もう、諦めたい・・・。そうだ、どの組み合わせがいい?がんばって、要が好きそうなやつを五組までは決めたんだ。これが俺の限界だ」
「へぇ」と面白そうに要が俺を後ろから抱きしめて、目の前に広がる五組を眺める。
左京も右近もいるが、要の行動に苦言を呈する元気もない・・・・
「全部紫系ですね。俺が蒼に着せたい色、ちゃんとわかってますね」
「藤だろ?藤の精ぽいやつがいいんだろ」
「はい、嬉しいな。蒼が何時間も俺のこと考えてくれて」
「そういうのいいから、早く選べよ。俺は疲れたんだ」
「じゃぁ、左から二番目のやつかな。絞りが前の結婚式の衣装と似ていていいですね」
「よし、きまった!終わりだ!」
「残念だけど、次は髪飾りを選ばないとね、その次は香、その次はみなにふるまう菓子、あぁ、その前に肌着と草履も選ばないと」
雪音が困ったように笑いかけてくる。
なんてことだ。なんておそろしいんだ、結婚式の準備!
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結局、全部終わったのは夕方過ぎた頃だった。
終わるとはおもえない仕事も、諦めなければ終わるというものだ。
「疲れた・・・」
「お疲れ様です。ほら、満月が綺麗ですよ」
要の提案で、今日の夕餉は月を見ながらになった。
屋敷には釣り殿 という釣りをする離れみたいな場所があるのだが、そこからよく月が見える。
時折、池で魚が跳ねるポチャンという音も、案外風流だ。
鬼の世界の酒は強いので、お湯で割って飲むのがいい。要が空になった俺の湯呑に新しい酒と湯をいれる。
そういえば、前世では食事は要が担当していた。こちらでは要が台所に立つことはないので、必然的に一緒に過ごす夕餉の時間が長くなる。
食べ終わってからも食器を洗う必要はないので、こうして酒だけ残して、要が俺を撫でる時間がたっぷりとある。
今も、俺は要の膝の中にすっぽりおさまった状態で座っており、首筋に口づけされたり、太ももを撫でられたり、好き放題されている。
「んっ・・・おい、どこ触ってるんだ」
「いいじゃないですか」
「っん・・・あっ・・・・」
衣の中に手が入ってくる。乳首をくりくりと弄ばれる。先をぐっとつままれると、思わず声が出てしまう。
「んっ」
顔を上に持ち上げられて口づけされる。強引に要の舌が入ってくる。
「んっ・・・はぁ・・・あっ・・・・」
止まらない愛撫に、体が火照る。
「あぁ、こんな所で」と思うものの、庭よりはましだろうかと思ってしまう辺り、俺も終わっている。
「蒼、好きです」
「あっ」
足を広げられ、要の指が入ってくる。
「んっふっ・・・あぁ・・・ああん」
「蒼、可愛いですよ。俺の蒼」
「あ・・・あぁ・・・・ああ・・・んっ・・・はぁ・・・」
声が静かな庭に響く。釣り殿がある位置のせいか、声が反響する。
大きくなった要のアレが俺の体をぐいと押し上げてくる。
そのまま体を前に倒されて、後ろからされるかっこうになる。
「蒼・・・気持ちいいです」
要がゆさゆさと動く。
快感が体を貫いていく、思わず喘ぎそうになるが、声をだすと池にこだまする。
これ以上恥ずかしいのはごめんだ。
衣の端を口で咥えて声を我慢する。
そんな俺に気が付いたのか、要が俺の乳首をぎゅっとつまむ。
「あっ」
「どれくら我慢できますか?ここをこうしたら?」
「うっ・・・はぁ」
俺の大きくなった先端をぐりぐりといじられる。
「ほら、声だして」
「はぁん・・・いや」
「ほら、これはどう?」
要が激しく一気に突き上げてくる。
「ああああ!」
思わず声をあげると、宵闇にいやらしい声が響いた。
「いいですよ。ああ、たまらない」
さらに大きくなった要のソレからくる快感に、羞恥心もどこかへいってしまう。
「あああ!はぁはぁ・・・あぁん・・・・やぁ・・・・・」
もうダメだ・・・・もうどうにもならない・・・・気持ちよくてやめられない。
パンパンパン
それからしばらく、静かな庭に、愛の儀式の音が続いた。
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