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第28話

「華さん、お世話になりました。ありがとう」 「また来てくださいね。留学楽しんで」 華やかな春桃国を出発し、俺達はついに冬白国(とうはくこく)へ旅立つ。 「あ、(まこと)さんによろしくお伝えくださいね」 「誠さん?って誰?」 「蒼さんは会ったことないんでしたっけ?冬白国の姫ですよ。前世は広池大(こういけだい)静根誠(しずねまこと)教授です。冬の王子ですね」 「えぇ!まさか・・・ってことは、秋紫国(しゅうしこく)の姫は・・・・」 「そうです!月彦(つきひこ)さん、安部教授ですよ!京音大(きょうおんだい)の」 「信じられないな」 「月彦さん、また蒼さんに衣装作りたいって言ってましたよ~」 「結婚式の衣装作ってもらったしなぁ・・・懐かしいな」 「みんなで集まれたらいいですね。人間だった時は全員で集まるなんて機会なかったですし」 「まぁ・・・機会があればで・・・・じゃぁ、また」 どんな顔して会えばいいんだか。ふざけた世界もあったもんだ。 人づきあいはやっぱり苦手だ。これだけ関係者がいるとなんだか気が滅入る。 正直華との関係でいっぱいいっぱいだ。さ、早いところ出発しようと、飛行船へ足を向ける。 「あ、そうだ。要君、これ誠さんに渡してください。注文されてたやつです」 華と要がなにやらコソコソとやり取りしている。 この下り、嫌な思い出しかないが、対象は誠のようだし気にする必要もないか。 静根教授、どんな人だろう。華と違って物静かなイメージがあるが・・・・やっぱり変態なんだろうか。 もしかして、俺も変態なのだろうか?だって、姫と閂って変態しかいないし・・・。 「お待たせしました。出発しましょう」 おかしな考えに気を取られていると、要が戻ってきた。 「おまえ、何ニヤニヤしてるんだ?」 「いえ、いいことを教えてもらって」 「ちょ・・・やめろよ。俺に何かするなよ」 「大丈夫ですよ。セックスに関することじゃないですから」 「露骨に言うなよ」 「さ、出発しましょうか」 嫌な予感しかしないが、まぁ考えても仕方がないだろう。 要から逃れる術なんて持ち合わせていないのだから・・・ 🔷 春桃国を出て一時間ほど飛ぶと、空気が一気に冷えてきた。 用意されていた防寒着に着替える。袴とシャツの上に、裏キモーのコートを羽織り、マフラーを巻く。 靴も中がファーになっているブーツに変わった。 飛行船から外を見ていると、次第に陸地が白くなり、着くころには真っ白な雪景色へと変わった。 「寒いな~雪なんて降るんだな」 「冬白国の首都は一年中雪で覆われていますね」 「俺は寒いの苦手だから、夏青国でよかったかもな」 「蒼は暑いのも苦手でしょう?」 「まぁ、そうだけど・・・」 「体が弱いから心配です。細いし、力ないし、小さいし」 「おい、俺をバカにしてるのか?鬼の世界ではそうかもしれないが、人間の世界ではいい男だっただろうが」 「んー綺麗でしたけど」 「お前の中の俺のイメージどうなってるんだよ」 「綺麗で、可愛いです」 「聞いた俺がバカだった」 🔷 寒い、寒くて震えるのはいつぶりだろうか。 ふっと息を吐くと、白くなる。 足踏みをすると、キュキュと雪が鳴った。 今回は、まずは俺と雪音が滞在することになる家へと向かうらしい。 昼のうちに荷下ろしをしないといけないのだろう。 待っていた馬車に秀英(しゅうえい)が支持をだして、飛行船から荷物が積み込まれていく。 荷物は全部要が用意したから、俺は何があるのかわからない。 服くらいじゃないのかと思ったが、大きな荷物もある。家具もあるのかもしれない。 その辺は要の指示に従うのが留学の条件だし、たいして興味もない。 俺は、学ぶことさえできれば満足だ。早く大学が見てみたいなぁ、と手袋にくるまれた手を揉んだ。 馬車に揺られてしばらくすると、ログハウスのような建物が見えてきた。 木造の家々の屋根に白い雪がのっている。まだ昼間だというのに曇っているせいで薄暗い。外套に灯がともっている風景は、まるでクリスマスの町のようだ。 家は町中にあった。これはいいな、と思う。買い物にもすぐに行けるし、鬼の世界を毎日身近に感じられる。夏青国では、家が町から遠くて他の鬼を見ることがまずないから、普通の生活ってものがまだわかっていない。要なしで町にでかける時は、イベントの時くらいだし、それ以外の買い物は要がぴったりついてくるから、姫としてもてなされるので、とても普通の暮らしとは言えない。 「蒼、一人で出歩くことは許しませんからね。大学へは毎日馬車へ乗ってください」 「わかってるよ。雪音か秀英とならいいだろう?」 「秀英はダメです」 「なんでだよ?使用人やってくれるんだろ?」 「秀英はオス型です。俺以外のオス型と二人でいるなんて絶対許せません」 「おまえなぁ・・・・。だったらメス型の鬼にしてくれればよかったのに」 「そうしたいんですけど、妖術を使える鬼は基本的にメス型にはならないんですよ。飛行船乗りはみんなオス型です」 「あぁ・・・・なるほど。じゃぁ、雪音とだけか」 「そうなります。見張ってますからね、俺の影が」 「あ・・・・」 うっかり舌打ちしそうになる。GPSはないけれど、さらにやっかいなものが俺に付いているのを忘れていた。 「と言っても、興味は抑えられないでしょうから、引っ越しが終わる間、街をみてまわりましょう。家のことは左京と雪音さんに任せればいいですし、閂との会食は夜なんで」 「ほんとか?やった」 正直、町見学を指をくわえて我慢できるとは思えなかったのでありがたい。 こういうところは直したいなと思うのだが、興味が湧いてしまうとどうしても抑えられないのだ。 「俺もデートしたいですし」 「デート?おぉ、そうだな。デートだな。デートしよう」 要が手を出してきたので、当り前のように握る。手袋をしたまま手を繋ぐなんて初めてかもしれない。 というか、雪デートは初めてだな。 俺はウキウキした気持ちで町へ繰り出した。

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