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第30話
引っ越しが終わり、俺と要は冬白国の閂と姫に合うために、閂の家へやってきた。
石造りの城で、ゴツイ。植物もほとんどないし、改めて国の違いを感じる。
要が緑が生い茂る夏青国の閂でよかったなと思う瞬間だ。
「左京はなんでこないんだ?」
「苦手みたいですよ。誠さんと恭弥さんが」
雪音と左京もてっきり一緒だと思ったのだが、どうも左京が乗り気ではないらしく、別行動をとることになった。雪音は冬白国に来るのが初めてだし、今日は二人でゆっくりしたいと言っていたが、あの左京の動揺の仕方を考えると、おそらくそれだけではない。春桃国では普通だったし、うーむ、冬白国の閂と姫は一筋縄ではいかない何かがあるのかもしれない。
「誠 が姫で、恭弥 が閂だったっけ?」
「そうですよ。前世では、誠さんが、広池大学の教授で、恭弥さんは弁護士をやってましたよ」
「へぇ。弁護士か。頭良さそうだな」
「恭弥さんは切れ者ですよ。左京と同じでちょっと固い所がありますけどね」
「それで左京は苦手なのか?」
「んーどうでしょうね」
「要は平気なのか?」
「はい。なんとも思いませんよ」
「そうか。なぞは深まるばかりだな」
門を通ると、使用人が応接間へ案内してくれた。
石でできているせいか、中は暗いし寒い。
使用人たちも物静かでおごそかだ。
応接間に入ると、巨大な絵画が目に入った。裸の鬼が片腕を高くあげ、その下に山のような鬼の死体がある。なんと悪趣味な絵だろうか。ちょっとげんなりする。
暖炉には赤々と火が燃えていて暖かい。ソファーはヨーロッパのアンティークを思わせる上等な物だ。
敷物が虎の毛皮なのに気が付いて、また悪趣味だな、と思う。
「やぁ、よく来たね。要君」
「恭弥さん、お久しぶりです」
長身で黒髪、黒ぶちの眼鏡を来た男が入ってくる。
恭弥、ということはこいつが元弁護士の閂だ。
「そちらは噂の姫かな?」
「どうも、蒼です」
「なるほど、とても美しい。気高さとプライドを感じる。いいメスだ」
舐めるような視線にぞっとする。なんだろう。表情は穏やかなのだが、どこか恐ろしさを感じる。
メスという言い方もひっかかる。
恭弥の後ろで、もぞもぞしているのが誠だろうか。
「あ、あの、初めまして。誠です。要君と華さんからお話は伺ってました。お会いできて嬉しいです」
少し長めのストレートの髪にうつむき気味な表情、物静かな感じはテレビで以前見たのと変わらない。身長は俺と同じくらいだろうか。黒をベースにしたタイトな服装が華奢な肢体を一層華奢に見せている。まつげが長い。俺も長いほうだが誠の方が長くて色気があるような気がする。冬の王子か、確かに間違ってはいないな、と思う。
「こちらこそ。ご挨拶できる日が来るとは思っていませんでした。要が世話になっています」
なんだろう。少し顔が赤い。あがり症なんだろうか。
「俺達は少し仕事の話をする。お前たちは先に食事にするといい」
「は、はい。では、蒼さん、こちらへ」
「どうも」
「蒼、じゃ、後で行きますから、誠さんの相手ちゃんとしてくださいね」
「わかってるよ」
いわゆる外交というやつだろう。春桃国は人だった時からの付き合いで、なんとなく外交というよりは友人の家に遊びに行く感じがしたが、恭弥と誠は、要もそこまで深い付き合いはなさそうだ。閂が仕事の話をしている間、姫は姫で食事を楽しまねばならない。めんどうなことだ。
しかし、それはともかく・・・。
前を歩く誠の歩き方がおかしい。まるでトイレを我慢しているような歩き方だ。腹の調子でも悪いのだろうか。
やっとダイニングテーブルに着く。誠の歩調がゆっくりなので、着くまでに時間がかかった。
示された椅子に腰かける。
ウォールナットが使われた艶のあるどっしりとしたテーブルだ。夏青国ではケヤキが多いから、なんだか新鮮で、撫でてしまう。
「ひっ」
「え?」
テーブルに気を取られていたが、誠がおかしな声を上げたので、そちらを向く。
顔を伏せている。やはり腹の具合でも悪いのかもしれない。
「どうしました?気分が悪いんじゃないですか?」
「あ、いえ・・・その。いつものことなので」
顔を上げた誠の顔が赤らんでいる。息も少し荒い。目元も潤んでいる。
熱もあるのかもしれない。
しかし、そんな様子の誠を気にする風でもなく、使用人がワインを運んできた。
「大丈夫そうに見えないですよ」
「気になさらないでください」
「はぁ・・・・」
何か会話を、と思うのだが、誠の顔が普通ではなくて何も思いつかない。
ワイングラスを持つ手も心なしか震えているように見える。
ごくりとワインを飲み込むと、「んっ」と誠がまたおかしな声をあげた。
どうやら、体を動かすとおかしくなるらしい。
仕方なくこちらもワインを飲む。
給仕が一旦退出すると、部屋が静かになった。
気まずい・・・。どうしよう。要にはちゃんと相手をするように言われたが、誠の様子が明らかにおかしい。
ん?
何か音が聞こえるような・・・
耳を澄ますと、ブーンという機械音が聞こえてくる。
どこからだろう・・・さらに耳を澄ますと、その音は誠が座っている辺りから聞こえてくるようだ。
チャリーン
誠が肘でナイフを落とす。
「す、すいません」
俺の方へ転がってきたので、それを取ろうとテーブルの下へ入る。
ブーン、ブーン
音が大きくなる。
音の方へ視線をやると、誠の足があった。誠が足をよじっている。
っていうか、アレが勃っている。
拾ったナイフを使用人に渡し、焦った顔がバレないように、俺もうつむいた。
アレだ。たぶん、アレだ。よくは知らないけど、存在は知っている。
春桃国の下着屋で、雪音が縄を買ったコーナーに置いてあったのを思い出す。
大人の玩具ってやつだろう。唐栗一族が作った、電動マシーンみたいなやつ。
音から察するに、誠は何かを入れられているのだ。
うそだろ?なんで今?ありえないだろ。どんな趣味してんだよ。
「あ、あの、すいません。お見苦しいものをお見せして。恭弥様が許してくれなくて・・・」
俺が気が付いたことに、誠が気が付いたのだろう。さっきよりも顔を真っ赤にしている。
やばいよこの人、要、早く来てくれ。どうやって相手したらいいわけ?
この時間どうやってうまく乗り越えろっていうんだよ・・・
「い、いえ、大変ですね」
この返しあってるのか?何が大変なんだよ、と自分でも思う。
食事が出されるが、俺も誠もまったく箸が進まない。
帰りたい、もう帰りたい。そう何度も念じた頃、やっと恭弥と要が談笑しながら部屋へ入ってきた。
「あ、すいません。要、ちょっと、こっち」
「え?どうしました?」
俺は要を引きずるようにして、一旦部屋の外へ出た。
深くため息をつく。
「ワイン、あんまり進んでませんでしたね。蒼は人見知りだからなぁ」
「バカか」
「え?」
「え、じゃないよ。お前、やばいって」
「何がです?」
「誠さん、何か入れられてる。勃ってるんだよ、アレが。機械音もするしさ。顔がずっと赤いし、体動かすと感じるみたいで、変な声出すしさ。会話できるわけないだろ」
「あぁ。今日もですか」
「はぁ?」
「恭弥さんドSなんですよ。大人の玩具使うの好きみたいですね。あ、でも、無理やりじゃないですよ。玩具注文してるの誠さんですし。華さんの話だと、誠さんはドMらしいです」
「えぇ・・・・」
「華さんから渡された物を昨日届けてもらったので、さっそくそれを使ってるんじゃないですか?」
「なんで俺達の前で・・・・」
「そういう趣向なんでしょ」
「お前よく平気だな」
「平気じゃないですよ。もうほんと、ずっと羨ましくてたまらなかったです。来るたびにイチャつかれるんで。でも、やっと蒼が来てくれたんで、今日は目の前のプレイを楽しめそうです」
「意味がわからない」
「あの・・・」
「何だよ?」
「蒼も大人の玩具使ってみたいですか?俺、俺以外が蒼の体に触れるの嫌なんで、そういうのは買ってないんですけど、蒼がどうしてもやってみたいなら、挑戦してもいいかなって」
「バカか!」
「そうですよね。蒼も、俺の体だけがいいですよね。クチュクチュってかわいく鳴らせるの俺の指だけですよね」
「・・・・・何言って・・・・」
「え?違うんですか?機械もほしい?」
「いらないよ!」
「ですよね。欲しいのは俺だけですよね?」
「う・・・・・」
「蒼?やっぱり、機械も?」
「・・・・・要だけでいい、いいから」
「はい」
最悪だ。左京が嫌がったのはこういうことだったのだ。目の前で繰り広げられるプレイに俺はどれだけ耐えられるだろうか・・・。そして目の前のすでに欲情した要の相手を今夜しなければならないと考えると、恐怖で鳥肌が出て仕方なかった。
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