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第42話
講義が終わった後、周瑜と津々楽は仕事の都合で帰宅した。せっかく機会を得たというのに、犯人逮捕に失敗し、ピンクとオレンジの色がついた違法な媚薬が出回り始めてしまったのだ。犯人は小太りなあいつに違いないっていうのに、証拠がなく手が出せていないのだろう。あと少し、ということもあって、周瑜と津々楽が大学を欠席することも多くなってきている。二人とも焦りのせいか機嫌があまりよくないので、距離を取れるのはありがたい。
「これ、どこまで写本するつもりなんだい?私はこういう単純作業はあんまり好きじゃないんだけどねぇ」
「その本一冊まるごと作るんだよ」
午後を書庫で過ごしていると、ついに雪音がブーブー言い始めた。努力しなくてもいろんなことをそつなくこなせる雪音は、コツコツ何かをやるといことを嫌がる。少しは左京を見習ってほしいものだ。
「はぁ、厠に行ってくるよ」
雪音があくびをしながら席を立つ。
「おい、すぐ戻って来いよ」
「わかってるよ。一目の着く所から動くんじゃないよ。今日は周瑜も津々楽もいないんだから」
ひらひらと手を振って、雪音が書庫を出ていく。
雪音がやっていた写本を見る。さっきから全然進んでいない。
仕方ない。ため息をつきつつも雪音の続きをせっせとやる。
仙花の資料も時々探しているのだが、光る植物について書かれた書物はなかった。
ここの学者が知らないとは思えない。植物のコーナーに置いてある書物は大方見たはずなのだが。すべてに目を通したわけではないが、俺が知らない事柄が書かれた書物は読んだと思う。
ということは、分野が違うということだろうか・・・。
ぐっと腕を上へあげて伸ばす。反り返った背を椅子にもたれさせると、視界に何かが入った。
書庫の奥の方に、「神学」と書かれた札があった。
植物が光る原因となっているのは地下にある気脈ではないかと要は言っていた。その気脈とは、なんだろうか?もし、神の力が関係しているとしたら・・・。
俺はガバッと立ちあがった。仙花については神学の分野なのかも。
奥へ行くのを一瞬ためらったが、雪音は全然もどってこない。写本に飽きて油を売っているのだろう。
少しなら問題ない。辺りを見回して、俺を狙っているようなオス型がいないことを確認し、「神学」という札がある奥へと向かった。
・・・・気脈とは生命の源・・・・産土の神の気が作り上げたもの・・・・光り輝く木々・・・子をなす力・・・
夢中で本を漁っていく。ビンゴだ。どうやら気脈は産土の神の力が漏れ出ているものらしい。産土の土地にある木々はすべてが光り輝いているという。
「産土かぁ・・・」
子どもの件について考えるのを後回しにしていた。
さて、どうするものか。
「うっ」
突然視界が奪われ、口がふさがれる。息が苦しいと思うのと、意識が混濁していくのは同時だった。
🔷
「ぐ・・・うぅ・・・」
眩暈がする。うーんとうなりながら、目を開ける。
ここはどこだ?ずいぶん寒い。ん?手足が動かないことに気が付く。
次第に意識がはっきりしてくると、俺は自分の手足が縛らせている状況を把握した。
「やっと目が覚めたか?」
目の前にニタニタと笑うあの太った鬼がいた。
周りを見渡すと、他にも数匹の鬼がいる。
資材置き場だろうか、木箱が壁に並んでいる。少し広めの倉庫のような場所だ。
石の床に粗末な布団が敷かれ、俺はそこに手足をしばられた状態で転がされていた。
「ぼっちゃん、服を脱がせてもいいですかね?」
「なんて美しい鬼だ。こいつを俺達のおもちゃにするとは、いい考えだぜ」
「おらぁ、もう勃ってきちまった」
鼻息をあらくする鬼達に寒気を覚える。どうやら俺を犯す気まんまんらしい。
「お、俺に手を出せば大変なことになるぞ」
この状況をなんとかしなくては、今頃いなくなった俺を雪音が慌てて探しているだろう。時間を稼ぐ必要がある。要の影が出てきてはまずい。できれば要を殺人犯にはしたくない。
「おやおや、下賤な民に回されたと家の者に言えるのかい?そんなことをしたら名家の名に傷がつくだろうね」
お門違いも甚だしい。俺は名家の子息などではない。姫だと言ったらビビるだろうか?しかし、姫だという証拠も無いし。どうするのが最善だろうか。
「何が目的だ」
ここは、話をして時間を稼ぐのが正解だろう。
「紫の染料はどうやって作るんだ?」
なるほど、紫の媚薬だけが作れず、業をにやして俺を誘拐したということか。で、ついでにやっちゃおうという浅はかな考えらしい。
「そんなことか。それを教えたら解放してくれるのか?」
「そうだな。紫の染料の作り方を聞いて、俺達のことを誰にも言えないような痴態をさらしてもらったら解放するさ。おい、飲ませろ」
「やめろ!触るな!」
にやにやした太った鬼の指示で、数匹の鬼が俺の口をむりやりこじ開けて何かを流し込んだ。
「ゴホゴホっ」
甘い後味がする。媚薬だ。
「なぜ、こんなことをする?金に困っているのか?」
体温が急激にあがってくる。顔が熱い。強い媚薬を盛られたらしい。息が荒くなってきたが、まだ自我はある。
「花街で遊ぶ金もほしいが、一番欲しいのは俺の思い通りになるメス型だ。わかるか?思い通りの契りができないもどかしさが?俺はなぁ、美しい鬼が、俺のちんこをおいしそうにしゃぶって、欲しい欲しいと懇願する姿が見たいんだよ」
興奮気味に話し始めた太った鬼の股間がムクムクと盛り上が上がる。
「腕をしばって、鞭で打って、ひぃひぃいいながら、俺のちんこを舐めて、入れてくださいって涙を流すメス型が見たいんだ。なのに、花鬼ときたら、俺の見目が悪いからって、料金は他の鬼の倍とるわ、したらしたでへたくそだ、ちんこが小さいだ、気持ちよくないだと、罵ってきやがる。だから、中毒性のある媚薬を作ったんだよ。薬漬けにすればどんな美鬼だって、俺の足元にひれふすだろう?」
「はぁ・・・はぁ・・・クソ・・・だな。この・・・下衆野郎が」
体の熱に耐える。意識がぐらんぐらんと揺れる。服の上からでもわかるそそり立った鬼達のアレに視線が行く。欲しいと体が訴えてくる。
「まだそんな口が利けるのか?おい、飲ませろ」
「ぐっ・・・がっ・・・」
再び媚薬を盛られる。否応なしに俺のアレもムクムクと立ち上がってくる。
「クックック。お前もやる気が出てきたようだな」
体に触れている服ですら感じる。全身が熱い。
要・・・要・・・・
「ぼっちゃん、もうやっていいですか?」
「まだだ。こいつが望んでやられる必要がある。手は出すなよ。おい、蒼という名だったか。ほら、犯してほしいならこれをまず口で咥えてみせろ」
太った鬼が、下半身を露わにして俺の前に出した。
思わずごくりと唾を飲み込む。
「どうした?欲しいだろう?いいんだぞ?うまそうだろ?あぁ、そうだ、まずはしゃぶらせてくださいって土下座でもしてもらおうか」
目の前で小さいが真っ赤に膨れたアレが、俺を誘うようにゆさゆさと揺れる。
唾液が口の中にたまる。
「はぁ・・・い、嫌だ!」
唇をガリっと噛む。痛みと血の味で、なんとか正気を持ち直す。
「なんだと!」
太った鬼が顔を真っ赤にして目を吊り上げる。俺の髪を鷲掴み、自分のアレを俺の口に無理やり入れようとしたその時、黒い影が俺の髪を掴んでいた手を持って、太った鬼をぶん投げた。
「ぼっちゃん!」
「くそっ」
投げ飛ばされた鬼が木箱ごと崩れ落ちるガシャンという音を合図に、他の鬼と影の戦いが始まった。
「か、かなめ!ころすな!」
喘ぎながら俺が叫ぶのと同時に、倉庫の扉が勢いよく開き、雪音が駆けてきた。
周瑜と津々楽、それに他の鬼の姿もある。
「どうなってるんだい?」
息を切らした雪音が、俺の手足を縛っている縄を解く。
「鎮情剤、飲ませてくれ。着物の袂にある」
媚薬を過剰に摂取したせいか、手が震える。
雪音が慌てて、俺の着物の袖をさぐり鎮情剤を見つけて俺の口へ放り込んだ。
俺が開発したラムネのような鎮情剤が口の中ですぐに溶けていく。
「はぁ・・・はぁ・・・雪音、遅いぞ」
鎮情剤が効いてくるのを感じる。火照った体がみるみる落ち着いてくる。しかし、震えは止まらない。薬物過剰摂取の影響は鎮情剤では収まらないのだろう。心配そうな雪音を和ませるために、憎まれ口をたたくので精一杯だ。
「すまなかったねぇ。私も襲われてねぇ、蹴散らして書庫へ急いだんだけど、蒼の姿はもう無くて、慌てて周瑜たちのところへ行ったんだ。そしたらここだろうって言うから駆けてきたんだよ」
「そうか、それは大変だったな」
雪音が後ろの気配にとっさに剣を抜いて振り返る。
「これは・・・」
「ああ、要の影だ。俺を守ってくれる」
影がこちらへやってきて、俺を抱き上げた。家へ帰るつもりなのだろうか。
「陰って・・・そんな・・・要様が夜叉族?」
「悪い・・・雪音・・・・もう・・・限界だ」
今までにみたこともないような驚きと困惑の表情を浮かべた雪音に違和感を感じたが、要の影に抱かれてほっとしたせいか、俺はそのまま意識を手放した。
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