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第6話【大学】

三年になった今でも、二週間に一回の金曜日にやってくる。 その日も、何の前触れもなくドアが開いた。 俺は勉強していた手を止めてうつ伏せでベットに寝転がる。自分で脱がないのはやる気があると思われたくないから…だけど無理矢理押さえつけられるとあちこち痛いところが出るから、諦めてこの態勢までは自分ですることにしたのだ。そこからは、蓮が下だけ脱がして俺が準備したワセリンを使って無理矢理挿れてくる…このワセリンだって…別の日に、たまたま近くにあったハンドクリームを潤滑剤がわりに蓮が使ったのがキッカケで少し楽に入ったから自分が少しでも傷つかないように準備したのだ。 相変わらず言葉は発さず無言で腰を揺らす。俺も黙って我慢する。別に優しくしてほしい訳じゃない。痛みを伴うこの行為でも相手が蓮と言うだけで特別な行為に変わりはない。ただ、何故こんなことをするのか…それが一番知りたい。 蓮は自分が終わると、ゴムをティッシュに取って黙って出ていく。 「なぁ、蓮…」 「……」 「何でこんなことするのかいい加減教えてくれよ」 「お前は、こう言う事がしたかったんだろ?だから彼女作ったんだろ?だから…俺が代わりにしてやってんじゃん」 「え?俺、彼女いないよ!」 「そんな嘘つかなくてもいいよ。だけど、これは止めねーから。そろおろ、お前も善くなってきただろ?」 「は…?」 それだけ言って出ていってしまった。 頭を殴られたような衝撃で、しばらく動けずにいた。 そもそも、代わりにって何だよ… 蓮…意味分かんないよ… この家を出よう。そう決めたのは大学受験がキッカケだった。希望大学を誰にも言わずに変えた。都内の大学から熊本の大学に変更。担任と父さんだけに知らせたが、二人には他言無用でお願いした。 受験の数ヶ月前まで、二週間に一回の金曜日来ていたのにいつのまにか来なくなった。安心しているようで、少し寂しくなったが、これで受験に集中できる。必死に勉強した甲斐があって大学には合格した。 明日には熊本のアパートを探して、卒業式が終わったらここを出ていく。 二週間後にはとっくにいない。 今日来て…蓮。いつもみたいにでいいから最後に一度だけ… 来てくれた… 相変わらず気持ちいいとか、そんなものはない。だけどどんなやり方でも蓮と交わるのはこれが最後。痛みを伴う交わり…何度も蓮を呼んだ。後ろにいて見えないから、どんな風に俺を抱いているのか分からない。でもそこにいるのは蓮だと自分に言い聞かせて…人生最後になるだろう交わりを蓮としているのだと頭と身体、そして心に焼き付けた。 卒業式の日、由佳と少し話して別れた。熊本の大学に行くことも、最初は驚いていたけど最後には遊びに行くよと言って笑っていた。なんだかんだ由佳の存在は良い意味で大きかった。 父さんにも住所は口止めして、家を出た。父さんには「お前はしっかりしすぎて助かっていたが、もう少し周りを頼ったり、わがままを言ってもいい」と言われた。 蓮には… ずっと側にいられなくてごめん。 約束破ってごめん。 とだけ書き置きした。 大きな家具はアパートが決まった時点で注文していたけど、三日後に届く。二、三日ホテルで泊まりながら掃除をしたり、その他の家具や必要なものを揃えようと考えていた。 全部、自分仕様にするのは楽しくて、そんな中でも蓮を思い出し寂しくなっては切り替えて、何とか住めるまでに揃った。 こんなに蓮の側を離れるのは初めてで、やっぱり心にぽっかり穴が空いたみたいで…痛みでも何でも蓮を感じられたらいいのに… あっという間に大学が始まった。 友達でもないのに、毎回、俺の隣に座るこの男は授業に来て寝る。出席だけ取りに来ているのだ。 「今日、課題出てるよ」 「え?マジ?寝てた」 「うん。知ってる」 「なぁ、教えてくんない?」 「いいよ、その代わり、俺にもピアス開けてくんない?」 「いいぜ、別に。って、本当にやんの?」 「あぁ、頼むよ」 「わーたよ」 「いつしてくれる?」 「明日バイトないから大学終わってからでもいいぜ」 「分かった。じゃあ、ウチでいい?その時に今日の課題もやろうよ」 「あぁ、いいぜ。てか、名前は?」 「千秋」 「俺は健(たける)。じゃあ、明日な」 この時が初めての会話だった。健は顔の至る所にピアスをしている。これを見た時から痛いのか気になっていた。痛みに飢えていたのだ。 「これで、課題も終わりだな」 「うん。終わり。じゃあ、ピアスいい?」 「そんなガッツクなよ。一気にいくのとじんわりいくのどっちがいい?」 「どっちが痛い?」 「どっちも終わった後はジンジンする。だけど、一気にいく方は衝撃があるから直後のジンジンは強いかも」 「じゃあ、一気にお願い」 「…分かった」 ガチン 「ジンジンするだろ?」 「うん。ありがとう。そうだ、お金とかは?」 「課題のお礼にやるよ」 「ありがとう。じゃあ、帰って?」 「何だよそれ…帰るけどよ」

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