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第8話【健視点】
講義に行くと必ず一人で座っている奴がいて、その隣が空いているから当然のようにそこに座って寝てしまうのだ。
今日もしっかり一コマ寝て起きると課題があると教えてくれた。そいつに教えてくれと頼むと、いいけどその代わりにピアスを開けてくれだと。見かけで大体の人が避けていく俺に声をかけて、ピアスを開けてくれって、しかも初めて話したのに明日家に来いって…こいつ面白いわー。
しかも、バイト終わりに行くと、痛いのがいいみたいなことを言うし… バイト柄色んな性癖の人を見てきたが、たまに痛い事が気持ちいいって人もいる。ただ、千秋のはまた違うような気がした。
バイトのことを聞いてきた千秋に隠さずに言うと、引いたりせず更に詳しく聞いてきた。
普通メンズエステで働いてるなんて言うと、誰もが引くと思うけどな…何だか嬉しかった。
だけど、千秋はセックス経験があるのに前戯を知らない。前戯なしで慣らされもしないセックスなんて…特に男同士なら、尚更辛かったはずだ…
その日のバイト終わり、千秋からメッセージが来てた。
またピアスを開けてほしいって。文面からほんの少し切羽詰まった感じがした。急いで行くと、不安そうな顔で、どこでもいいから早くしてほしいって…いろいろ聞きたいことはあるけど、取り敢えず開けてやった。この前みたいに、終わったら帰れって言うのかと思ったら泊まってもいいって…広めのワンルームでベットに横になった千秋の後ろ姿が見える。時折「 …」って何か呟いてるけど聞こえない。
千秋…お前何があったんだよ…
その日は、ご飯食べて、しばらく千秋の様子を見て帰った。
千秋がされなかった気持ちいいことを、人にしてあげると何かが満たされることはないかな…あれから俺なりに考えてバイトに誘った。嫌だって言うと思ったら意外と前向きで、俺が施術するところを見ていった。
終わった後、少し考えたいと言っていたが、嫌な顔一つせず、健すごいなって…たまに無自覚で嬉しいこと言ったりするんだよな。
夏休み中も、時々、千秋の家に行って課題をしたりDVDを観たりして過ごすことは多くて、俺のバイトの話になることもある。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど」
「んー?」
「この前、橘さん、優しくしてって言ってたのに何度もイかせてたじゃん?あれって逆に辛くないの?俺、イったことないから分からないけど、めちゃくちゃ口調は優しいのに攻め立ててたよね?」
「そんなことかよ」
「でも、すごく橘さん気持ち良さそうで満足してたように見えたから、そこの塩梅というか見極め?が出来て健すごいなって思ったんだけど」
「照れるじゃねーかよ。って、でも、誰でも褒められると嬉しいだろ?何度もイかせることで俺としては沢山褒めてあげられるじゃん?要はキッカケ作りだな。優しく一回イかせても満足するかもしれないけど、俺は落ち込んだことすら忘れさせたいし体力消耗したらゆっくり眠れるじゃん」
「あ、だから次の日が休みか聞いたんだ?」
「そう言うこと。まぁ俺の持論だけどな」
「やっぱすごいな健」
「何も出ねーぞ」
「あそこも好きだった」
「んー?」
「最後の残り5分のところ、橘さん健に思いっきり抱きしめられながらイってたよね」
「好きだったって…映画のワンシーンじゃないんだから」
「本当に良かったよ」
「そりゃどーも。で?そこまで褒められると照れるんだけど、、結局バイトすんの?」
「んー俺さ自分自身がイったこともないし、反応もしないんだけど…大丈夫かな?」
「え?立たないってこと?」
「うん、まぁ…そう」
「それって、前戯なしセックス関係あんの?」
「前戯なしセックスって…まぁ、その頃から反応しなくなって今はすっかり…」
「マジか…いや、バイトはできるよ。別に本番をする訳じゃないから」
千秋は普段温厚な性格で頼りになる奴なんだけど、たまに痛みを欲している時不安そうな顔をする。自分の息子が反応しないことももう諦めているように感じた。
それでいいのかよ…
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