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第12話【前戯なしセックスヤロー]

日が経ち、バイトにも慣れてきた頃、俺は寝不足になっていた。 何度目だろうか… 最近、同じ夢を見る。お客さんを気持ちよくしているはずが、いつのまにか俺が触られて泣いているのだ。どうして、こんな夢を見るのか、考えているうちに眠れなくなっていた。 ポカリと空いた穴にまた落ちそうになる… 夜中の3時……二回だけコールを鳴らして出なければ諦めよう… 健… トゥルルル  トゥルルル やっぱ、寝てるよな…こんな夜中じゃ… 眠れずにいると、カーテンの隙間から入った月明かりに照らされて光る安全ピンが見えた。無意識に手に取り見つめる。 刺したら痛いかな…少しだけ…ホントに少しだけ… 指先に刺した。チクっと鋭い痛みだ。だけど足りない… あと少しだけ…ジンジンする痛みが欲しい… さっきよりも深く刺す。何度も刺す。 血が流れるのも構わず… 「千秋」 「…たけ、る?」 「お前は、何やってんだよ」 「何でいるの?」 「電話してきたのはお前だろ?何回もかけなおしてるのに出ないし」 「え…あ、マナーにしてたんだった…」 「それより、こんなこと二度とするな」 「…ごめん」 「次したら許さないから」 「でも、ちょっとしか」 「ちょっととかの問題じゃない。こんなこと…っ」 「……」 「……」 黙々と止血してくれた。 「で、俺はどうしたらいい?」 「…最近眠れなくて…」 「うん」 「添い寝、お願いします」 「はは、分かったよ」 腕枕をして優しく抱きしめられると、不思議なほど眠れた。健の腕の中は温かい。 昼近くに目が覚めて、そこにある寝顔はやっぱりカッコよくて見とれる。 「…今、見てるだろ…」 「え?見てないよ?」 「嘘つけ。俺が見てなくても視線はバンバン感じてるっつーの」 「目開けてないのに俺が見てたなんて分かるわけないだろ!」 「目開けてないって何で分かんだよ…はは」 「いや、それは!」 「もーいいから。それより、少しは眠れたのか?」 「はい。おかげさまで。ありがとうございます」 「焼肉な」 「はい」 「てか、あんな事、絶対二度とするなよ?添い寝ならいくらでもしてやるから」 「うん。ごめん。ありがとう」 「てかさ、痛みを欲するのも、前戯なしセックスヤローが関係あるんだろ?」 「急に…どうしたの?」 「急じゃない。ずっと気になってた。話してくれるの待ってたけど、ここまでくると訳を知っときたいって思うだろ?」 「うん…そうだね…ごめん」 「… 別に誤って欲しい訳じゃない、少しでも支えになりたいっつーか、こんなに仲良くなったやつ、これまでにいなかったから…何つーか大事にしたいっつーか…」 「うん………」 「やっぱり、話したくないか…?」 「ううん…聞いて欲しい。上手く話せるか分からないけど…」 「あぁ、ゆっくりでいいから」 「……神野蓮って…言うんだ… 蓮のお父さんが会社の社長でね、俺の父がその秘書をやってるんだけど、その関係で蓮とは小さい頃から仲良くて。俺も蓮も父子家庭だったから、お互い出張とかで父親が不在になるからって中学生の頃から一緒に住むようになって、家でも学校でもずっと一緒にいてさ…でも、ある時、無理矢理その…されて…ものすごく痛くて三日間寝込むくらい高熱でてさ。でも、その後も二週間に一回は同じようにやりにくるの」 「最低だな」 「そうかもしれない…でも、俺は小さい頃から蓮が好きだったから、そんなことされても蓮のこと嫌いになれなかった」 「……」 「そもそも、蓮の将来のために俺の気持ちなんて言おうと思ってなかったけど…それでも…ずっと一緒にいたいって思ってた。それが友達以上になれなくても。だけど、さすがに痛みに慣れてくると…このままじゃダメだって…そんなこと、蓮にずっと続けさせたくもなかったし…自分の気持ちにも限界だったのかも…」 「…俺の気持ちなんて…なんて言うなよ…」 「…で、逃げるようにこっちの大学受験した。小さい頃から、当たり前のように側にいた蓮と、蓮を好きだった気持ちを…全部置いてきたつもりだったんだけど…健には迷惑ばっかりかけてるね…ホントごめん」 「迷惑なんて一つもかけられてない。話してくれてありがとな」 「ううん…」 「そいつは、東京の大学に通ってんの?」 「そう、〇〇大学。何もなければ俺も一緒に行ってたかな」 「そっか」 それだけ言うと、腕枕して軽く抱きしめていた腕に力が入って、ギューっと抱きしめられた。元気出せと言ってくれてるようで嬉しかった。  

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