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第7話
――運命の番。さっき沖田様の口が確かにそう動いた。
心を読むようにひっそりと生きてきて、その中で培われた能力は、読唇術だけではなかった。
誰よりも先が読めるそんな力も、腹の中で生まれたいとずっとくすぶるようにそこにあった。
後ろ手に縛られヒートで狂っていく自分の頭で、それでも確かにそう読み取れた。
それは正しいのだろう。
正しくて、正しくない事実は、おかしいほど腑に落ちた。
きっと沖田様の番は土方様だ。
沖田様を大切に思う気持ちは愛ではなく情だろう。そのとてつもなく重い情と等しく同じ重さで、僕を愛してくれている。
――――運命の番。この人の子供が欲しい。土方様の子供を抱きたい。抱いていいと言ってくれた。皆が口々に喜んでくれた。あの事実は確かに真っ直ぐに正しい感情だった。
腹の中で確かに腑に落ちた事実には、僕は口を挟まないと決めた。
それが一番『正しくなくて・正しい』
そう考えながら、目頭から熱いものが溜まっていくのがわかる。重さで流れてしまいそうになるそれを、瞬きしないことにより必死に我慢した。
結ばれている手は、それを拭う事も出来ない。
『運命の番』その言葉を反芻するように、怜音は何度も呑み込んだ。
自分だけが感じていたこの違和感。
土方に初めて会った時に感じたこの想い。
体を駆け巡るような電撃を、沖田は『運命の番』だといった。
「怜音。ごめんね。寂しかっただろ」
虚ろな目が土方をみた。
溜まる涙を舌先でそっと拭う。優しいしぐさに、心が温かくなった。
「甘い匂いがどんどん出てくるよ」
「土方様、沖田様はいいのですか」
「ああ、良いんだ」
「でも……」
口を挟まないと決めたのに、同じオメガとして……これはなんと言う感情なのだろうと不安そうに土方を見上げた。
「手、解いてあげるから、俺の方にもっと寄っておいで」
「土方様……」
「いいんだよ。お前は何も知らなくて。俺の愛だけを感じて、もっと幸せにおなり」
「土方様……」
「俺はお前が好きだ。知っていてくれ。お願いだから」
――――苦しそうなお顔をしている。
「土方様……」
「さっきからそれしか言わないんだな」
「じゃぁ、挿れてください。もう我慢ができません」
「もう少し指でかわいがってからでもいいか」
甘い匂いが土方からも漂っている。
番のいるものからは、フェロモンは漏れない。それを僕たちは知っている。
それでも感じる確かな匂いは、運命以外の何物でもないのだろう。
でも、僕はオメガだ。
番を解除されたオメガのたどる末路ももちろん知っている。
陰に生きてきた人間には、普通ではわからないことが、確かな重みで分かる。それだけたくさん見てきている。
解除されてしまったオメガは、自分のアルファを求めて泣き暮らす。ヒートの苦しみでのたうち回る一週間は、番がいるのに交われないより、想像以上にはるかに苦しい。
噛みたい! それはアルファの本能なのを知っている。
だからこそ噛ませちゃいけない。
「そこの……薬下さい」
――飲むなら今しかない。
「なんだこれ。見たことないぞ」
「遊女たちにしか……流れてこない、違法の薬ですからねぇ。見たことあったら、僕……引きますよ。これでもし、あなたに噛まれても、番えない」
怜音は迷うことなく、飲み込んだ。
それを黙って見つめる土方の口元は、噛み締められ、口の中は血の味がした。
「俺は……」
「知っています。でも噛まないと決めても本能には逆らえませんよ」
「怜音……」
「これはその本能に抗う最後の砦です」
「お前は、それを望むのか……」
「そんな苦しそうな顔しないで。あなたは僕に大切なものをくれる」
「何もやれない」
「違いますよ、産んだ子供が抱ける。あなたはそう僕に約束してくれました」
「それだけだ」
「それも違いますよ。だって沢山愛してくれるんでしょう」
「それはもちろん」
中に入っている土方の指が内側に曲げられ、反応するように怜音は仰け反った。
「ンンハーーーーークフー」
「怜音、ここか?」
「気持ちいぃ」
言われるまま幾度も執拗に曲げた。
怜音のいいとこを探るように、その場所を撫で擦った。
「アンッッ」
「四つん這いになって」
「こう?」
「いい子だ。そのままお尻を高くあげてごらん。挿れるよ」
太く長い土方の一物は、そのまま楔の様に埋め込まれ、嬌声を上げ続ける怜音を激しく突き続けた。
「子宮が下がってきているのが解るか」
「怖い怖い怖い」
妊娠なんか初めてじゃない。ただ早く終わればいいと思っていた、ただの生殖行為に、愛情という重い感情がのるだけで、こんなに怖くなるものなのかと、ぼーっとする頭で怜音はそう考えていた。
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