始業式、沢山の生徒に囲まれて新任の挨拶をした講堂内は、三条のあまりの美しさに息をのむ生徒がたくさんいた。A組の副担任になった三条は、担任の生方とともにクラスに向かっていた。 「凄い動揺だったな。あんたの顔がかわいいからだな」 「何を言ってるんですか。誰がきいてるかわからないんですから、あんたは止めて下さい」 「真面目だなぁ」 「あまり内側に入られたくないんですよ。生方先生は何と無く既視感が強くて、出来ればある一定の距離間が欲しいです」 　自分を守るように三条は一線を引いた。 　予鈴の鳴る前とあって、廊下にはまだ生徒がたむろしていた。 「あ、生方、そのかわいこちゃんどこの担任になったの？　E？　D？」 　やんちゃな生徒が軽い口調で声をかける。 「お前のいるE組じゃない。それに呼び捨てにするなと何回言えばわかるんだ。ばかは死ななきゃ治らないか？」 「いやぁ死んでも治らないでしょう。じゃあDかよ。あいつらずっりー」 「違う、A組だ。俺の補佐だ、手を出すなよ」 「A組？　その首、だってオメガだろ？　いまだかつてアルファクラスって言われるA組にオメガの担任なんかいたこと無かったじゃねぇか。まじ生方、なんかずるしたんじゃねぇだろうな」 「口の利き方に気をつけろと言っている。グレアを使われたいのか。Ｅなんかにしたらお前らの餌食になるだろ。今は保護法も確立されてきてる。感情の赴くままに動物の様に動くな。頭を使うとはそういうことだ」 　着崩したブレザーにだらしなくネクタイを締めた生徒は、『グレア』の声に、さもありえないとばかりに目を見開いた。 　チリチリと焦げるような太陽光が窓の隙間から床に伸び、足元を焼いた。 　まるで靄がかかった様に遠くに聞こえたチャイムが、皆の意識を現実に引き戻していく。 　強靭なメンタルで一切引き込まれなかった三条が、生方に笑う様に苦言を呈した。 「もう、アルファ度高いんですから、グレアなんか、簡単に使っちゃだめですよ。さぁ、ヤンキー君の戯言(ざれごと)は無視して行きましょう」 「おい！」 　後ろからヤンキーの生徒が声をかける。優雅の一言に尽きるようなしなやかな猫のような動きで、ゆったりと体を反転させると 「君、名前は？」 　と三条が振り返りざまに言った。 「高橋……です」 　――嘘だろ。この圧なんだよ。こいつオメガじゃないのか。 　動揺する高橋と名乗る生徒に、極上の笑みを浮かべ、こう答えた。 「国語教師だ、E組も担当だから、またあとで会おうね」 　異様なオーラが廊下に充満する。本鈴に合わせて三条は生方に連れられてA組に入った。 　 　高橋は小さく震える肩に手を回し、ギュッと自身の股間を握った。 「チビルかと思った、なにあの子ネコちゃん。見た目通りじゃないとか、……でもそういうやつをヒンヒン泣かせんのが興奮すんだ。やられっぱなしでいる訳ねぇだろ」 　舌なめずりするように三条に狙いを定める高橋を、生方は冷めるような目で見つめていた。