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第21話
――あんたの得意なものでいいぜ。
「いや、君の得意なもので良い」
高雄はそう虚勢を張ると、クラスの中がざわついた。
バカな事をという顔が見て取れる。
視線の先で雅が泣きそうなのにも気が付いた。
雅は僕が剣道7段、空手4段なのも知っている。という事はこいつは相当強いのか。
頭の中で冷静に判断した。
「先っ……」
何かを言おうとした生徒を、高橋がジロリと一睨みした。
――余計な事を言うなという事か。
――それなら誘いに乗ってやる。
――オメガだからって舐めんな。
「剣道はどうだ、明日防具持ってるだろう。まぁ君がきちんと授業に出るならだがな」
高雄は白くて細い手を大きく開いて、大仰な仕種で負けないように威圧した。
「構わねぇよ。皆の前でヒンヒン泣かせてやるよ」
気にもしてない俺様アルファは舌でぺろりと唇を舐めた。
「下品だな」
「あんたみたいな天才と一緒にすんな」
「僕は別に天才ではない」
「おっと、そりゃあそうか。オメガに生まれただけで最下層だもんなぁ。ぼくちゃん並々ならぬ努力をしました、かわいがってくださいってか」
顔に似合わない舌打ちが聞こえる。
「ゲスな発想だ」
賭けは剣道に決まった。理由は簡単、明日の授業が剣道だからだ。剣道のあったその日は生徒が防具を持っている。学校から止められるのを避けるため試合は早い方がいい。
「誰か貸してやれよ」
高橋が何かを言っている。
防具を貸せという事か。
「それには及ばない」
「何持ってんの?」
「ああ、持っている。授業を始めるぞ」
そう言うと、高橋の目がいやらしいほど細められ、クククっと喉を鳴らし、そりゃどうもっと小さな声が聞こえた。
久々だと三条は思った。
背筋に伝わる冷たい一筋の汗。
緊張を隠す様に、漢文の一文を読み上げた。
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