21 / 27

第21話

 ――あんたの得意なものでいいぜ。 「いや、君の得意なもので良い」  高雄はそう虚勢を張ると、クラスの中がざわついた。  バカな事をという顔が見て取れる。  視線の先で雅が泣きそうなのにも気が付いた。  雅は僕が剣道7段、空手4段なのも知っている。という事はこいつは相当強いのか。  頭の中で冷静に判断した。 「先っ……」 何かを言おうとした生徒を、高橋がジロリと一睨みした。  ――余計な事を言うなという事か。  ――それなら誘いに乗ってやる。  ――オメガだからって舐めんな。 「剣道はどうだ、明日防具持ってるだろう。まぁ君がきちんと授業に出るならだがな」  高雄は白くて細い手を大きく開いて、大仰な仕種で負けないように威圧した。 「構わねぇよ。皆の前でヒンヒン泣かせてやるよ」  気にもしてない俺様アルファは舌でぺろりと唇を舐めた。 「下品だな」 「あんたみたいな天才と一緒にすんな」 「僕は別に天才ではない」 「おっと、そりゃあそうか。オメガに生まれただけで最下層だもんなぁ。ぼくちゃん並々ならぬ努力をしました、かわいがってくださいってか」  顔に似合わない舌打ちが聞こえる。 「ゲスな発想だ」  賭けは剣道に決まった。理由は簡単、明日の授業が剣道だからだ。剣道のあったその日は生徒が防具を持っている。学校から止められるのを避けるため試合は早い方がいい。 「誰か貸してやれよ」  高橋が何かを言っている。  防具を貸せという事か。 「それには及ばない」 「何持ってんの?」 「ああ、持っている。授業を始めるぞ」  そう言うと、高橋の目がいやらしいほど細められ、クククっと喉を鳴らし、そりゃどうもっと小さな声が聞こえた。  久々だと三条は思った。  背筋に伝わる冷たい一筋の汗。  緊張を隠す様に、漢文の一文を読み上げた。          

ともだちにシェアしよう!