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第23話
体育館に行くと、中央に一人、誰かが座っている。
――高橋だ。
道着のまま瞑想している。
意外だと思った。
もっとおちゃらけているはずだった。
仲間を呼んで、オメガをはべらせて、そうでなければ計算が狂う。高橋にとっては負けるわけのない余裕のある戦いだったはずだ。
雰囲気を察したのかこちらを向いた高橋と目が合った。
――え?
心臓がドクンとなり、無性に喉が渇いた。
なぜそんな真剣な眼差しをしているんだろう。
オメガにくって掛かられたのが、腹が立ったから?
『呑まれるなよ』
樹さんの言葉が頭に浮かんだ。
◇
昨夜、稽古が終わったあと、ちょっといいかと言われ、樹さんに呼び出された。
先に風呂に入りたくて、少し待ってもらう様にお願いすると、わかったと偉く真顔だった樹さんに少しばかり恐怖を感じた。
怯えたのを感じたのか、樹さんの手が僕の頭にそっと置かれた。
風呂から出てリビングに行くと、窓に寄りかかってこちらを見つめていた。
「なぁ、高雄」
「なに……樹さん。っていうか何その服、エロすぎ」
「うるさいよ。香にたまにはいいだろと強請られたんだ。放っておいてくれ」
「いや、目のやり場に困るんだけど」
首までほのかにピンクに染まる。
「デカい乳が羨ましいか」
おもむろにゆすった。
恥じらう事を知らないアルファならではの豪快さだ。
「小さくても感度良いんで、大丈夫です」
ぶほっ。
「負けず嫌いだな」
「あなたの子なんで」
冷たい風が吹く。風呂上がりの火照った体にはちょうどいい。
「オメガに産んで悪かったな」
突然懺悔の様に言われた低音の言葉にびっくりして、「は?」とひっくり返った声が出た。
「…………なに、急に」
「いや、お前を見ていると、そういう気にさせられる。アルファに産んでやれたなら、その力を遺憾なく発揮できただろうにと思ってな」
「別に困っていないよ。アルファのが偉いとも思ってない。オメガの方が面倒だとは思っているけれど」
「そうか。高雄は好きなやつとかはいないのか」
「興味もない」
「アルファを探すのか」
普段は聞きもしない事を、珍しく聞いてくると思っていると、樹さんの目がキッチンに流れた。
――あぁ。二人とも心配性だ。
「アルファを探す? それも分からない」
「そうか」
「何、本当……へんな樹さん」
「第二性は厄介だな」
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