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第24話
「それはそうだけど、でもオメガだからこそ、なにくそって思って頑張れたのかもしれないじゃないか」
「お前は本当に前向きで頑張り屋だな。さっきな、泣いてる雅に全部聞いたよ」
――あのおしゃべり。
高雄はポリポリと頭を描いた。
「ああ、ミヤにはきつい言い方をしちゃった。何か言ってた?」
「心配していたぞ」
「うん。めちゃくちゃ嫌な奴なんだけど、でもさ、別にE組に落ちてまでわざわざなんでだろうって思うと、少し腑に落ちないんだよ」
「ああ、そいつ、バカな訳ではないのだろう」
「うん。あのあと、授業もしてみたけど、テストは半分はほぼ白紙。赤点にならないギリギリを狙ってる。ワザとっぽい。でも今日、前のオメガの子が教科書忘れて困っていたんだ。隣の子が声をかけようとしていたら、凄い顔して睨んで、そんな意地悪しなくてもって思って、注意しようとしたら、高橋、教科書投げて貸してたんだよ」
「どういうことだ?」
キッチンではパパちゃんが洗い物をしている。
きゅっと水の締まる音が聞こえて、洗いものが終わったのだと理解した。
「例のバイブ突っ込まれてた男の子に、貸した? 的な感じ」
全てを知っていると理解したのか、高雄は赤裸々に話し出した。
「自分は?」
「試しに授業あててみたら、忘れました。って言った」
「で。前の子はどうしたんだ」
「何か言いたそうだったけど、高橋にこっち向くんじゃねぇ。喧嘩うってんのか! って言われて黙る羽目になりました」
「なるほどね、ただの嫌な奴ではないわけだ」
くしょん、高雄のくしゃみが聞こえると、キッチンから走って出てきたパパちゃんが、慌てて開け放っていた窓を閉め言った。
「ほら、やっぱりくしゃみした。ママちゃん、たかちゃんが風邪ひいちゃうでしょう。二人ともこっちで話して」
「私の心配はしないのか」
樹にそう言われ、香が珍しく嫌そうに言った。
「アルファが風邪なんかひくわけないでしょ。たまには看病くらいしたいものですよ」
強引にソファに連れていかれ、ホットミルクの入ったマグカップを手わたされた。
樹さんのホットミルクにはいつもブランデーが数滴垂れている。
「ああ、すまん」
樹さんは申し訳なさそうにすると、綺麗な紫色の一人掛けにゆっくりと腰を下ろした。
「僕は先に寝室に行ってる。二人でゆっくりお話ししたらいいよ。何かあったら呼んで」
「ああ、ありがとな。香」
二人がソファに腰を下ろしたのを確認すると、だぶだぶの樹さんのTシャツを寝巻代わりに、パパちゃんは寝室へと消えた。
ホットミルクを一口、二口飲むと、お腹の中から温まる。
「彼シャツってやつ」
「一種のマーキングだそうだ」
「樹さんが着せてるんだと思ってた」
「違うぞ。もうそろそろヒートだろ。巣作りの一環だ」
「ああ」
高雄もホットミルクを一口飲み、温まった胃をさすった。
「本題に戻るが、そういうやつは厄介だぞ」
「いいやつってこと?」
「いや、いいやつではないだろう。ただ、言葉と中身は違うことは大いにあるかもな。案外その子のことが好きってケースもある」
「それは無くない? 皆の前でズボンおろされて、ペニスさらされて、いやっバイブまで……、いやそれは無い。僕ならそんな奴に恋なんかしないよ」
「恋なんて意外性の連続だし、あり得ないことの方が多いものだぞ」
「そんなのアルファの傲慢だ」
「お前が勝ったら組替って言ったんだよな」
コクンと頷く。
「何もないといいが」
◇
あの時感じたアルファ特有の嫌なにおいはしない。
竹刀が床にわずかに当たる音が震えているように聞こえた。
「逃げないのは偉いねぇ」
高橋が高雄に向かってそう言い放った。
「逃げるわけがないだろう。A組に連れて帰ってやる」
虚勢を張って高雄は体格の差には気が付かないふりをした。
「俺の邪魔をするなら本気で行くぞ。覚悟は良いんだな」
「こっちのセリフだ」
強い王者のにおいがした。
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