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第25話
踏み込んでも踏み込んでも交わされる。
「へぇ、先生なかなかやるじゃん」
「君こそ」
「だけどその程度じゃ勝てねぇよ」
「まだまだ、終わってない」
「もう無理だって、ほら、もう足がふらふらしてんじゃん」
――ここはどこだ。
高雄はぼーっとする頭でこの状況を冷静に考えた。
転がされているこの場所に見覚えは無い。
最後の記憶は高橋との会話だ。
形勢は、五分五分どころか、惨敗だった。
「あー、起きた?」
聞き覚えのある声に、背筋が寒くなった。
「たか……はし……」
その部屋の端の方に置いてある椅子に座って、本を読んでいた。
「他に誰がいると思ったんだよ」
「いや、別に」
かかっているリネンをそっと捲り上げた。
「なんかされた形跡でもあったかよ」
「……何もしてないのか」
体は綺麗なものだった。
記憶を失っている間に綺麗にされたこともあるから、それも考えた。
でも後ろに違和感はない。もう何年も後ろは使ってない。服の上からでもわかるような、平常時でも立派なペニスをいれたら、さすがに違和感はあるだろう。勃起時はゆうに二倍はありそうだ。
そっと手を後ろに回した。
その一連の動作を見て、チッと舌打ちが聞こえる。
ビクンと肩が跳ねた。
目線だけをあげると、睨んでる高橋と視線が絡んだ。
「なに感じわりーな。何もしてねぇよ」
ぶっきらぼうに言い捨てた。
「何で」
思っていることを口にしていた。
高雄は包み隠さず、ただ、シンプルに感じたままを……素直に。
「何で? ってなに」
「何で何もしてないの? そんなに魅力なかった? オメガを好きにできる権利だよ」
「はぁ?」
「はぁじゃなくて」
「じゃなくてじゃねぇよ。はぁ? って言うだろ。そりゃ」
「だって、僕負けたんでしょ」
「だなぁ」
「それなら一日自由にしていいって言った。それとも意識ないやつは面白くないから起きるの待ってたの? オメガとのセックスに興味ないの?」
「ねぇよ!」
「高橋君……」
言われたセリフを疑った。
オメガとのセックスが極上の快感だという事は、周知の事実だ。
びっくりした顔に、嫌そうに眉間にしわを寄せ、高橋が更に獰猛な獣のような声を上げた。
「てめぇマジむかつくんだけど」
――むかつくなんて言われても、仕方がない。だって分からないのだから。
「なんで」
「この前だって佐々木を助けたつもりかよ」
「佐々木?」
ああ、高橋の前の机にすわってる、バイブ突っ込まれていた学生だ。|佐々木望《ささきのぞむ》。僕と大して背格好の変わらないオメガ。
「おめぇがちょっかい出さなきゃ、あいつのズボンを下げる必要なんか無かったんだよ」
「ちょっと待ってよ。あれはいけないのは君でしょう!」
「うるせぇ! 俺らのことなんか何にも知らないくせに、横からしゃしゃり出てくんな」
顔に向かって物が投げられた。
それでもいくらでも鋭利な硬いものを投げる事は出来るだろうに、投げてきたのはクッションだった。
顔に当たったクッションはすぽんと手の中に落ちた。
「理不尽だよ」
自分のせいだと言われた言葉に、若干の動揺が走る。
「理不尽とか知んねぇよ。そもそも第二性がある段階で、生まれながらに理不尽なんか付いて回ってんじゃねぇか」
「それは……」
「あんたオメガだろ。底辺舐めてるやつが、あいつの気持ち分からねぇとか、ちゃんちゃらおかしいわ」
「分かってる!」
「分かってねぇよ!!」
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