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第26話
「抱けよ」
三条は半ば投げやりに、ベッドの中から声をかける。
「はぁ?」
苛立ちを隠せないまま高橋は盛大な舌打ちをした。
「ざけんなよ」
「ふざけてなんかいない。賭けには負けた。するつもりで、こんなとこに連れてきたんだろ」
たったこれだけの会話で、息が上がった。
嫌な予感に心臓が捕まれるような感覚がした。
先生の肩書も生徒の肩書もなく、ただのアルファとオメガだと、三条は思った。
普段はフェロモンを抑えるために、一日三回、抑制剤を飲んでいる。
効きづらい体質の三条は、普通より抑制剤を飲む間隔が狭い。8時間空けたらアウトだ。
昼に飲んだのが2時。少なくとも10時までには飲みたい。
今は何時なのだろうと窓の外を眺めた。
「何見てんだよ」
キョロキョロする三条に高橋が声をかけた。
「何時かと思って」
「あ? 今は……11時」
高橋が腕時計で時刻を確認する。
――万事休す、詰んだ。
「夜のか?」
狼狽するのを隠す様に、言葉が飛び出た。
いまさら夜も昼も関係ない、そんなこともわからないくらい、動揺している自分にびっくりした。
「当たり前だろ。あんたと道場で決闘したのが5時だ。打ち合いにふらふらになって、あんたが意識飛ばしたのが8時。あんたの家がわからなかったから、俺んちに連れてきた。そんだけだよ。何さかってんだよ」
薬の感覚が一回開いた。
小さく舌打ちをするも、もう打つ手はなかった。
頭はボーっとし始め、鼓動も速くなる。後孔が濡れてくるのが分かった。
「勃ってんのかよ」
高橋がびっくりするように言った。
直接的なその煽りに、ブワッとフェロモンが溢れ出た。
「だからしようって言ってる」
「煽んな」
高橋はアルファの中でもおそらく優れた種なんだろう。オメガは嗅覚でアルファ度がわかるという。高ければ高いほど優秀な種を持つ。匂いがほとんどしないのは不思議だが、嗅覚が狂っているのかもしれない。
意識を飛ばして薬の飲み忘れ。
三条にとっては痛恨のミスだった。
一人暮らしらしいワンルームの部屋は、思ったより何もなくて、ベッドと冷蔵庫くらいしか大きな家具は無かった。
冷蔵庫から水のボトルを出すと、ぐいっと手を伸ばす。
「いいから飲め」
「いらない」
「うるせぇ! 飲め」
キャップを外すと、ベッドサイドから何やら小さな錠剤を取出し、高雄の口に押し込んだ。
口移しで水を流し込むと、無理やり飲み込ませた。
「何のませたんだよ」
声が音を成していなかった。
「いじってぇ」
「しねぇっていってんだろ!」
「オメガ抱きたくないアルファなんかいないでしょ」
「俺はしない。信じてねぇのかよ」
フェロモンが充満しているこの状況で、冷静に話せる高橋に違和感を感じた。
「高橋って、もしかしてオメガ?」
「はぁ? なんでそうなんだ。アルファだ、ばか」
「だって、僕のフェロモンに反応してない」
「いいからちょっと話しようぜ」
椅子からシャツを取ると三条に投げた。
それでも高橋の言うことに興味がないのか、三条は衣服を脱ぎ捨てると、そのまま高橋にすり寄った。
「しよ」
「だからしねぇって」
三条は自分からフェロモンが漏れているのは分かっていた。首にすり寄るように目がとろんとなった。
「ねぇ、ここ触ってよ」
三条は高橋のペニスに跨るとねっとりと濡れているアヌスをペニスに擦り付けた。
「待てって!」
「したい……」
さっきから僅かに漏れる甘い匂いに、眉間を寄せた。
「まさかヒートかよ」
「違うけど、薬、感覚あき過ぎたから、セックスしないとおさまらない」
「冗談」
「ねぇ、高橋――、もうこれでいいから」
「あーもう、俺、|番《つがい》がいるんだよ。だからあんたのことは抱けない」
「番?」
「……………………」
「ちょっと、ねぇ高橋君」
「ああそうさ、つがい! いんの!」
「それなのに僕と遊ぼうとしたの?」
「っだから、介抱しただけだって、しつけぇな。――おい」
高橋がバスルームに向かって呼びかけた。
「ちょっと、高橋君」
「おい、いるんだろ。出てこい」
目線の先を見ると、何かが動く影が見えた。
「え? 君…………」
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