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第6話

 やっと雨が上がった頃には、長くなってきた陽も暮れかけていた。  耀くんに送ってもらって家に着いた頃、姉も帰ってきた。 「あれ? 碧も今帰って来たの?」 「うん。雷鳴ってたから耀くん家行ってた」 「雨もすごかったからさ。ここまでは無理だと思って」 「そっかー。確かにすごい降ってたもんねー」    姉はそう言って、でもそのセリフほどは納得してなさそうな顔をした。 「それにしても耀ちゃん、送ってくるなんて碧に甘すぎない? 一応男子なのよ、あたしに似て可愛いけど」 「そう、陽菜に似て可愛くて心配だから送って来たんだよ?  耀くんは当たり前のような顔をしてそんな事を言う。前からそうだ。 「また、耀ちゃんはさらっとそういう事を言うから」  姉は唇を歪めて耀くんを見上げた。僕もちらりと耀くんを見上げる。  僕は確かに姉に似た女顔で、小さい頃からよく「可愛いね」って言われてきた。今でもうちに来る女友達なんかにはよく言われてしまうし、男友達には「夜道は気を付けろ」とか言われる。  僕は正直、自分の顔のことはよく分からない。 「という事で俺は帰るね。また明日」  耀くんはそう言って踵を返した。 「あ、ありがとね、耀くん」  僕はその長身の後ろ姿に向けて声をかけた。耀くんは少し振り返って手を振ってくれた。  僕も振り返す。お姉ちゃんも慌てたように手を振っていた。  耀くんが角を曲がって見えなくなって、僕と姉はやっと家に入った。 「お姉ちゃん、カフェどうだった? 美味しかった?」 「ああ、うん。美味しかったし可愛かったわよ。写真いっぱい撮っちゃった」  姉はそう応えながらスマホを出して、ケーキやドリンクの写真を見せてくれた。女の子の好きそうな可愛らしいスイーツたち。  華ちゃんや萌ちゃんたちも映っていた。4種類の制服。 「結局何人? 6人?」 「そう6人。さっちゃんと華ちゃんとえりちゃんと、ちかちゃんと萌ちゃんとあたし」 「耀くんの言ってた通りだ」  僕がそう言うと姉は僕をじろりと見た。 「碧だけ耀ちゃん家行っててズルいー」 「お姉ちゃん痛いよ」  姉はなぜか僕をぎゅうぎゅう抱きしめてくる。 「ねえ碧。さっきの耀ちゃんのあれ、あたしも可愛いってことでいいのよね? ね?」  そう言いながら僕の顔を覗き込む。 「い、いいと思うけど?」 「あー、でもあのニュアンス的には碧の方が可愛いのかなー。もー、ホント、昔っからだけど耀ちゃんは碧に甘いんだから」  姉はもう一回「あーあ」と言って、僕を抱きしめていた腕を解き、そしてわしゃわしゃと僕の頭を撫でた。やっぱり少し乱暴だ。  ふと、耀くんの手の感触を思い出した。大きくてあったかい手。  そういえば、耀くんが僕以外の誰かの頭を撫でてるのは見たことがない気がした。

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