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第10話

 結局、僕の誕生日会は1日遅れでやることになった。  チョコクリームのホールケーキを一個注文して、更に姉たちが一個ケーキを焼いてくれるという。たぶん作りたいだけだけど、それでもなんか嬉しい。 「碧、誕生日おめでとう!」 「16歳ね、大きくなったわねー!」 「でもまだ全然可愛いけどね」  誕生日当日の朝、父、母、姉からそれぞれ「おめでとう」をもらって、そして父母は仕事に行き、姉はみんなと僕のパーティーの買い出しに行った。    久々に、誰もいないシンとした我が家。  変な感じ。    そう思っているところにスマホが鳴った。メッセージじゃなくて電話の着信音。  あ、耀くんからだ。 「はい、おはよー耀くん」 『おはよ、碧。誕生日おめでとう』 「ありがと、耀くん」 『碧、今日何してんの? 陽菜、みんなと買い物行っただろ?』 「うん。1人で家にいるよー。何しようかなって感じ」 『じゃ、俺行っていい? 昼前くらいになると思うけど』 「いいよいいよ、もちろん。耀くんがダメな日なんてないよ」 『あ、うん、分かった。じゃあ後で。昼飯は買ってくから。てゆーか碧は昼はどうすんの?』 「何かテキトーにするから大丈夫。ラーメンとかあるはずだし」 『そっか。じゃまた後でな』 「うん」  わーい。耀くんが来る。  どうせお姉ちゃんは夕方まで帰って来ないし。他のみんなも別の用事がなければ買い出しに行ってるだろうからうちには来ない。  誕生日に一人ぼっちはやっぱり淋しい。  うきうき、わくわく、そわそわしながら耀くんが来るのを待った。  外がすごく暑いから、冷房をちょっと低めにしておく。  11時45分に玄関のチャイムがピンポーンと鳴った。 「はいはーい。耀くんいらっしゃーい」  ぱたぱたと玄関に走って行って、大慌てで鍵を開けた。  ドアを開けると耀くん。 「ずいぶん嬉しそうに開けてくれるね、碧」  暑い中来たのに涼しげな耀くんが言った。 「耀くんが来るのはいつも嬉しいよ?」  なんでそんな事を言われるのか分からない。  そして耀くんはなぜか、少し困ったように笑った。 「とりあえず早く入って、耀くん。暑いでしょ」  僕がそう言うと、耀くんは頷いて入ってきた。日向(ひなた)の匂いがする。  つい、顔を近付けて匂いを嗅いだ。 「あ、俺汗くさい?」  耀くんが慌てたように僕から離れた。 「違うよ、お日様の匂いがするなーって」 「そっか、なら良かった。結構汗かいたから」  タオルで顔を拭きながら耀くんが言う。 「耀くんが汗くさいなんて思ったことないよ。僕、耀くんの匂い好きだし」  そう言って見上げると、また耀くんが少し困ったような顔をした。  なんでだろう  まあいいかと思って、キッチンで冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注いだ。 「碧、これ。誕生日おめでとう」 「え?」  耀くんの方を振り向くと、目の前に小振りのケーキの箱が差し出されてた。 「ケーキ? 買ってきてくれたの? わー、ありがとう耀くん」 「保冷剤多めに入れてもらったけど、早く冷蔵庫に入れた方がいいよ」 「うん、でもとりあえず見たい。いい?」  もちろん、と言われて、まずグラスを耀くんにどうぞと渡して、それから箱を受け取った。  キッチンのワークトップに慎重に置いて、そっとシールを剥がす。  白い箱を開くと中に、 「桃のタルトだ。え、もしかして花火の時に見たお店の?」 「そう。食べたそうにしてたから。明日パーティーやるけど、やっぱり当日にケーキがあったらいいかなと思ってさ」 「うわぁ、ありがとう。嬉しい。美味しそう! お昼ご飯の後で食べるー。でもあのお店ちょっと遠いのに。ほんとありがと、耀くん」  見上げながらお礼を言うと、耀くんが僕の頭をさらっと撫でた。 「そんだけ喜んでくれたら俺も嬉しいよ。まあ初めて買った店だから味は分かんないけど。クチコミは結構良かったよ」 「絶対美味しいよ。いい匂いするもん」  甘い桃とクリームの匂い。  その匂いを閉じ込めるように蓋をして、冷蔵庫にそぉっと入れた。  

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