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第11話
「耀くんお昼なに? チンするもの?」
「ううん、冷やし中華。暑いし」
「そっかー。僕どうしよっかな。あ、冷凍パスタある。食べちゃお。これ大好き」
冷凍庫を覗いて、冷凍ミートソースパスタを発見して取り出した。
2つあるから食べちゃっても大丈夫。
「そういえば耀くん、今日お姉ちゃんたちと買い出し行かなかったんだね」
パスタの袋をお皿にのせてレンジにかけながら訊く。いつもならお姉ちゃんは耀くんを誘ってるはずだし、荷物持ちを頼まれたら耀くんは断らないはずだ。
「あー…、うん。啓吾が行くって言ってたから、あいつに荷物持たせりゃいいかと思って」
「そっか、啓吾が行ってんだ。誕生日って主役はパーティー当日までハブみたいなもんだから、状況が全然分かんないんだよね」
パスタをレンジにかけて待っている間、コンビニの冷やし中華のフタを開けて準備をしていく耀くんの手元を見ていた。大きな手が器用にフィルムを外して、お箸で具をキレイに並べていく。
「お姉ちゃん、この前その冷やし中華の具、そのままひっくり返して入れてた」
「陽菜は見た目に反して豪快だからなぁ」
耀くんは笑いながらそう言って、スープを注いだ。
ピロローンと電子音が鳴ってパスタが出来上がる。
「袋開けんのが熱いんだよねー」
レンジの扉を開けながら言うと、
「じゃ開けてやるよ」
と耀くんがすいと隣に来て、パスタの袋ののったお皿を取った。
迷いなくハサミを取って、パスタをさっとお皿に出してくれる。もしかしたら耀くんの方がお父さんより、うちのキッチンの道具とかの配置を把握してるかもしれない。
耀くんはそのまま、片手に冷やし中華、片手にパスタを持ってテーブルに向かう。
僕はフォークと自分のグラスを持って付いていく。耀くんがまず冷やし中華をテーブルに置いた。
僕は向かい合って座るか、隣に座るか一瞬悩んで、いつも通り隣の椅子を引いた。
僕が座ったのを見て、耀くんが僕の前にパスタのお皿を置いてくれた。
いただきます、と手を合わせて、それぞれの昼食を食べ始める。
「ねぇ耀くん。後でコーヒー入れてくれない? この前みたいな」
「いいよ。ケーキの時だろ? 碧ん家はインスタントだっけ、コーヒー」
「そう、インスタント。インスタントでもおんなじ味になる?」
パスタをくるくる巻きながら訊く。ちょっと多かったかな。
「まあ、同じじゃないけど似た感じにはなると思うよ。碧、ソース付いてる」
耀くんがそう言って、スッと手を伸ばしてくる。大人しく待っていると、親指で唇の端を拭われた。そのまま、耀くんは親指の腹に付いたソースを舐めた。
「…美味いね」
「でしょ? ここのメーカー美味しいよねー」
お昼を食べ終わって、僕がお皿や容器を洗っている間に耀くんがコーヒーを入れてくれた。
いつものインスタントコーヒーの粉、いつもの牛乳、いつもの砂糖。
なのに
「なんで耀くんが入れるとこんなに美味しいのかなぁ」
「さあ? それは俺にも分からないけど。まあ食べなよ、タルト」
「うん」
スライスされた艶々の白桃がたっぷりのったタルト。タルト生地と生クリームと桃の断面もキレイで、ちょっとフォークを刺すのが勿体無い。
「わあ、美味しい」
僕が食べたのを見てから、耀くんもタルトにフォークを入れた。
「あ、うん、美味いね。良かった」
「お姉ちゃんも絶対好きだよ、これ」
耀くんは姉の分の入れて3つ、タルトを買ってきてくれてた。
「ケーキの空箱だけ発見したら拗ねるからな、陽菜」
「耀くんてほんと優しいよね」
僕がそう言って耀くんを見ると、耀くんも僕をじっと見てきて、その目にほんの少し、違和感を覚えた。そしてなぜか、頬がじわっと熱くなった。
タルトに目を戻して、また一口分切り取った。目の端に耀くんの手の動きが映る。
なんだったんだろう、さっきの
耀くんが、いつもとちょっと違って見えて、いつもよりも更に格好よく見えた。
まあ、耀くんはいつでも格好いいんだけど。
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